月の薄い大気がどうしてできるかを解明、アポロ計画で持ち帰った50年前の月の土から
1グラム以下の微小隕石が絶えず衝突している
そしてこの2つのうち、微小隕石の衝突が最も大きな影響を与えているようだという結論に達した。微小隕石とは、大きな天体が砕けてできたもので、重さは通常1グラム以下。月面には、このような小さな隕石が絶えず衝突している。 小さいとはいえ衝撃は大きく、衝突した地点は2000~6000℃に熱せられる。すると、水が水蒸気になるように、隕石が当たった部分の砂は融解して蒸発し、外気圏に放出される。 次に影響が大きいのが、太陽風だ。太陽から放出された高エネルギーの粒子は、太陽風となって流れ、あらゆるものに衝突する。地球は強力な磁場で守られているが、そのような保護がない月は、地球の陰に隠れる月食のとき以外は主に陽子からなるこれらのプラズマの攻撃に常にさらされている。陽子が月面に叩きつけられると、そのエネルギーが月の砂の原子に移り、原子が外気圏へ舞い上がる。 月の外気圏ができるのに微小隕石の衝突が最も大きく関わっていることを示したのは、ニエ氏らの研究が初めてだ。「これが外気圏の割合の70%以上を占めています。一方、太陽風による分は30%以下です」 「この研究は、月の大気のしくみと月面の進化への理解を高め、さらにほかの地球に近い天体の表面に関する研究にもより幅広く貢献します」と話すのは、米アリゾナ大学の惑星科学者で、米航空宇宙局(NASA)の小惑星探査機「オシリス・エイペックス」計画を率いるダニ・メンドーサ・デラジュスティナ氏だ。 「月だけでなく、小惑星も含め、火星の軌道より内側にある天体で見られる宇宙風化の最大の部分を、微小隕石の衝突が引き起こしているという証拠が増えてきています」とデラジュスティナ氏。 ニエ氏は、月の砂に含まれるほかの同位体についても研究したいと考えている。同様の方法は、6月に地球に帰還した中国の嫦娥6号が持ち帰ったものなど、新しい月の砂のサンプルにも使える可能性がある。また、2026年に日本が打ち上げを予定している火星衛星探査計画「MMX」で衛星フォボスから持ち帰るサンプルなど、ほかの太陽系の天体にも使えるかもしれない。
文=Isabel Swafford/訳=荒井ハンナ