やはり原始ブラックホールはダークマターにはなりえない?
■ダークマターの正体
20世紀中ごろの天文学者たちは、銀河やその集まりである銀河団は望遠鏡などでは観測できない物質で包まれているのではないかと考え始めました。その未知の物質は「ダークマター(暗黒物質)」と呼ばれ、当初は円盤銀河の回転速度が速すぎるという観測事実に対して辻褄を合わせるために導入された仮説でした。 「ダークマター(暗黒物質)」とは? 謎に包まれた仮説上の物質 その後、「ダークマターがあると仮定すれば説明できる」という事例が数多く知られるようになります。いくつか例を挙げると、 ・銀河団の中の銀河の移動速度が脱出速度を超えていること ・ビッグバン直後の早すぎる銀河形成 ・銀河団の高温ガスの存在 ・銀河合体が頻繁に起こっていること ・重力レンズ効果を受けた銀河が多く見つかること ・棒状構造を持たない渦巻銀河が多く存在すること ・矮小銀河の星の運動が速すぎること などです。ダークマターが本当に存在するという直接的な証拠は今でもありませんが、こうした数多くの状況証拠の積み重ねによって、現代の天文学においてはダークマターの存在は標準的な理論と捉えられています。また、宇宙論に関する研究によって、宇宙全体におけるダークマターの総量は、星やガスなどの原子や分子で構成される物質のおよそ5倍にも及ぶと計算されています。 しかし、ダークマターはどのような物質なのか、その正体は謎のままです。今のところ、ヒッグス粒子という素粒子が最有力候補と言えるでしょう。2012年にその存在が確認され、翌年にはヒッグス粒子の提唱者らにノーベル物理学賞が贈られていますが、まだダークマターの正体なのかどうかはわかりません。 一方、宇宙には「原始ブラックホール」という小さなブラックホールが無数に存在するかもしれないとする説があります。このブラックホールはビッグバン直後の宇宙に広がっていたごく微少な密度揺らぎから発生するとされており、それが大量に存在していた場合にはダークマターの候補になり得ると言われてきました。 理論上は原始ブラックホールの質量に関してはほとんど制限がないので、超新星爆発から生まれる通常のブラックホールよりもずっと小さな質量になる可能性もあります。むしろ太陽と同程度やそれ以下の質量のブラックホールは超新星爆発では作ることができないので、もしもそのくらい小質量のブラックホールが発見された場合は、それは宇宙初期に生まれた原始ブラックホールである可能性が高いと言えます。また、ダークマターは単一の物質ではなく、ヒッグス粒子や原始ブラックホールなど様々な物質の混合物であるという可能性も考えられます。