実は謎だらけの人気者シャチ、ひとつの種ではない? 暮らしは? なぜボートを攻撃?
人間はシャチにとってどれくらい脅威なのか?
人間がすでにいくつかのシャチの群れ、特に南部の定住型に悪影響を与えていることは明らかだ。北太平洋に生息する約75頭から成るこの群れは、人間に起因する生息地と餌の喪失、船舶との衝突によって、個体数が急激に減少している。 科学者はこの危機を表現するため、「明るい絶滅」という言葉をつくった。つまり、これは明白な形で、豊富なデータとともに進行している災害だ。 しかし、一般的に科学者は、人間がシャチにどのような影響を与えているか、また、人間がもたらしている最も有害な脅威は何かについて、十分な知識を持っていない。この全体像を把握するため、科学者は最もよく知られた群れの研究を継続すると同時に、太平洋の遠隔地で何度か目撃されている「沖合型」など、あまり知られていないエコタイプについての洞察も深める必要がある。 「少しずつ明らかになると思います」とモリン氏は話す。「外に出て、より多くのサンプルを集め、より多くの現地調査を行い、彼らの分布や食生活、移動、生活史、特性、そして、できれば数や傾向を把握し、人間が与えている影響を特定しなければなりません」 気候変動も不確定要素のひとつだ。さまざまな種の生息域における分布のモデル化を専門とするマルチネス・リンコン氏は、2023年、研究者のミラット・ブラン氏と共同で、シャチは、エコタイプが特定の生息地や食性に依存しているため、気候変動の影響を特に受けやすい可能性を示唆する論文を発表した。例えば、気候変動でシャチの主な餌のひとつであるマスノスケが減っている。 「シャチやクジラのような大型動物は水温をそれほど気にしません」とマルチネス・リンコン氏は話す。「しかし、気候変動によって餌がなくなれば、これらの大型動物にとって最大の難題になるかもしれません」
シャチの驚くべき行動の裏には何があるのか?
シャチによるボートの攻撃が、特にイベリア半島の沿岸で増加している。一部の科学者は、人間とシャチの緊張が高まっている証拠ではないかと推測する。この仮説はオンラインでも受け入れられており、波の下で展開される「シャチの反乱」のミームが登場している。 しかし、シャチに関する多くの謎と同様、シャチがボートを攻撃する理由はまだわかっていない。多くの科学者は、純粋な好奇心から、あるいは、マグロ狩りの訓練かもしれないと考えている。 結局のところ、シャチは矛盾だらけだ。しかし、このような矛盾こそ、かわいいベトナムマメジカ、カイメンにすむハゼ、シダレイトスギなどが含まれるデータ不足の種において、思いがけず、シャチを象徴として際立たせている。 「私たちは6度目の大量絶滅、つまり、生物多様性の重大な危機の真っただ中にありますが、シャチの種の数すらわかっていません」とテイラー氏は話す。「これは本当に驚くべきことです。ほとんどの人は、地球上の生命の営みについて、私たちは自分たちが思っているほど理解していません」
文=Becky Ferreira/訳=米井香織