【密着】歌舞伎町で70年、路地裏の「人情食堂」……お客たちの“マル秘”人生 大都会の「心のよりどころ」に『every.特集』
■清掃にのめり込む夫に呆れた妻
大学卒業後、食品の輸入会社に勤めていた小林さん。会社は、三ツ星レストランなどにも食材を卸していました。しかしロシアのウクライナ侵攻で食材の輸入が難しくなり、会社は自主廃業に追い込まれ、失業しました。 プライドを持って仕事に打ち込んでいた小林さん。コロナ禍でいい仕事が見つからず、「何かをしなければ」とすがるように始めたのがボランティア活動でした。 公益社団法人「日本駆け込み寺」のボランティア活動に1日2回参加。今は、ほとんど毎日、歌舞伎町で清掃活動をしています。 小林さん 「収入は基本的にないんですよ。0ですよ。この1年2カ月で0です。家内はいたんですけど、ちょっと私のこういう状況で、今大阪に帰っていまして。愛想をつかされてというか…」 就職活動そっちのけで清掃にのめり込む夫に妻は呆れ、1年ほど前に家を出ていったといいます。
■家族ぐるみのお付き合いをする税理士
ある日の夜、8時過ぎ。 女将さん 「あ~太郎さん、久しぶりです」 「太郎さん」と名前で呼ばれたのは、通い始めて10年以上という税理士の大德太郎さん。「この間、みゆちゃん(娘)に沖縄のお土産忘れちゃって。渡すの」 太郎さん 「沖縄行っていたの? いただきます」 家族ぐるみのお付き合いをする太郎さん。ただ、最初の頃は様子が違っていました。太郎さんは「ポツンと来たんですよね。1人でね。そこで黙って何もやらないで、ただひたすら飲んでただけ」と振り返ります。 女将さんも「こんなに親しくなるとは思っていなかったけど」と言います。
■多くの人と人をつないできた店
半年間ほぼ毎日やってきては、1人でお酒を飲みながら本を読んでいた太郎さん。親しくなるキッカケをくれたのは女将さんでした。 太郎さん 「(女将の)文江さんが話しかけてきてくださったんですよ。今どんなことをしているのとか、何かたわいもないことだと思うんですね」 女将さん 「あんまり話できなかったからね」 太郎さん 「そこからちょっとずつ話すようになって、かなり時間かけています」 気がつけば家に招いたり、他のお客さんとも旅行に行ったりする仲になりました。「うち家族でここ来てるんで。家族で来て。うちの娘、(店内で)遊んでたりするので」と笑う太郎さん。女将さんも「家族ぐるみのお付き合い」と言います。 太郎さんは「安心しますよね、ここ来るとね。本当に。みんなうなずいている。なかなかないよね」と話し掛けると、常連客は「うん、ないね」と頷きました。ひょっとこは、こうして多くの人と人をつないできました。