【密着】歌舞伎町で70年、路地裏の「人情食堂」……お客たちの“マル秘”人生 大都会の「心のよりどころ」に『every.特集』
新宿・歌舞伎町の路地裏に、多くの人を引きつける人情食堂があります。悩みを打ち明ける人に、夢を語る人…。70年愛されるこの小さな食堂は、まさに大都会の「心のオアシス」。密着取材から見えてきたのは、さまざまな人生模様でした。
■おふくろの味を求める多くの客
新宿・歌舞伎町。その路地裏で、70年以上愛されている小さな食堂があります。人情食堂「めし処 ひょっとこ」。手作りの家庭料理の店で、この街で働く人たちのお腹を満たしてきました。 厨房で鍋を振るのは、女将(おかみ)の佐藤文江(69)さん。店には、おふくろの味を求めて多くの客がやってきます。 「バレエダンサーです。超やめたい!」「水商売。将来自分のお店を持てればいいな」「グラビアをやってて、写真集出したいですね」。仕事や家庭の悩みを明かす人に、夢を語る人など、店に来る人たちは様々。ひょっとこは、都会で働く人たちの心のオアシスです。
■何十年も…こだわりはお釜で炊くご飯
毎朝8時、仕込みのために厨房に立つ女将さん。「お酒もお塩も適当で」と笑います。店は夫婦で30年以上切り盛りしてきましたが、2年前、夫の茂さんが病気で他界。以来、仕込みも調理も接客も女将さんの仕事になりました。 ご飯は炊飯器を使わずにお釡で。直火で炊くご飯がうまいと評判です。女将さんは「ずっとそれ(お釜)ですよね、何十年も」と言います。 娘の杉元円さん(44)は「そこがこだわりだよね。もう目安だから、全部水とかも火加減とか。今はお母さんしか炊けなくて、今、私も修業中」と話します。昼間の短い時間だけ手伝っています。 午前11時。ショーケースに手作りの惣菜が並びました。昼前、ランチタイムがスタート。生姜焼きの注文が入りました。「生姜焼き、人気ですよね」と佐藤さん。生姜焼き定食は店の人気メニューで、千切りキャベツに肉汁たっぷりの生姜焼きをのせます。 ランチタイムの定食は、メイン1品と小鉢2品が付いて1000円です。
■お店の魅力は「お母さんですね」
「あら! あらどうも。びっくりした。久しぶりだから」と女将さんが迎えた男性は、意外な職業の方でした。 「久しぶりです」。この男性は慣れた手つきで、冷蔵庫からビールを取り出しました。「猫を友だちから預かっていて」と話す男性に、女将さんは「本当に。じゃあ、なかなか(来られない)だね」 女将さん 「奥さんと待ち合わせしないんですか?」 男性 「今日は妻は仕事していますんで」 普段は妻と一緒に来るという男性。ひょっとこは知り合いに紹介されて気に入り、通うようになりました。気になる仕事を聞くと「公務員です。警察です」。この日は非番です。住まいは埼玉ですが、この店に来たいという理由でわざわざ歌舞伎町までやってきました。 ──このお店の魅力は? 男性 「お母さんですね」 女将さん 「ありがとうございます!」 男性 「なんか元気でいつも中で料理しているのを見ていて、元気だなと思って」 男性が必ず頼むのが「ウインナーエッグ」(550円)。女将さんと話しながらビールとおつまみ。このひと時が、なんとも心地よいんだとか。