“ファスナー合流”は長山先生が提唱者だった⁉ |長山先生の「危険予知」よもやま話 第28回(後編)
ドイツの優先関係は、日本より明確?
長山先生:高速道路のジャンクションなどでは、左下の「優先本線車道」の規制標示があり、合流地点に破線が示され、破線を越えて合流する側が相手の行動を妨げないようにする「非優先の関係」があることが標示されているので、まず迷わないと思います。一般道路の場合、右下の「前方優先道路」の指示標示があれば、逆三角形のマーク側が非優先となり、「相手側の道路が優先道路であるので相手を妨げてはならない」ことになります。 編集部:「横断歩道または自転車横断帯あり」の菱形ならよく見ますが、逆三角形マークは見た記憶がありませんね。 長山先生:たしかにそうですね。一般ドライバーの認識は不足していて、相手側を優先させようとする意識が薄いまま運転してしまい、合流時の危険を生み出してしまうような気がします。 編集部:交差点なら「左方優先(交差道路を左から通行してくる車両が優先)」や「広路優先(幅員が明らかに広い道路を通行する車両が優先)」が知られていますが、同じような幅員のY字路だったら迷いますね。ちなみに、外国でも「左方優先」のような考え方はあるのですか? 長山先生:ドイツは右側通行なので「右方優先」になります。ドイツの道路交通規則には、「交差点と合流点では右から来るものが優先権を持つ」と条文化されていますので、合流点に入るときにもはっきりした意識・認識で入ることができます。標識も、非優先側には「相手の優先権を守れ」「とまれ」の標識、優先側には「(自分の交差点・合流点で)優先権あり」「(この道路)優先道路」と、必ず対に設置されます。 編集部:先ほどの逆三角形マークの場合、非優先側のみ設置されていると優先側の車が迷うかもしれませんが、それぞれにしっかり標識が設置してあれば、迷わずスムーズに通過できそうですね。 長山先生:そうですね。また、ドイツの道路交通規則には、「相手の優先権を守らなければならないものは、自分の行動によって、特に適切な速度を取ることによって、自分が待つということを相手に分からせなければならない」という条文もあります。優先関係を単に解説するだけでなく、譲らなければいけない側にもそれに相応しい運転行動を求めているのです。 編集部:交差点や合流地点で相手の車両が微妙に動いていたり、あまり減速感が感じられないと、譲ってくれたのかどうか判断に迷うことがあるので、それは大切なことかもしれませんね。よく「運転はメリハリが大事」と言いますが、「進む・止まる」を明確にすることが交通の流れをスムーズにし、事故を減らすのでしょうね。 『JAF Mate』誌 2017年6月号掲載の「危険予知」を元にした「よもやま話」です 大阪大学名誉教授 長山泰久 1960年大阪大学大学院文学研究科博士課程修了後、旧西ドイツ・ハイデルブルグ大学に留学。追手門学院大学、大阪大学人間科学部教授を歴任。専門は交通心理学。1991年4月から2022年7月まで、『JAF Mate』誌およびJAF Mate Online(ジャフメイトオンライン)の危険予知コーナーの監修を務める。2022年8月逝去(享年90歳)。 <前編> 左折前の“幅寄せ”で安全性がアップ!|長山先生の「危険予知」よもやま話 第28回(前編)
話・長山泰久(大阪大学名誉教授)