“ファスナー合流”は長山先生が提唱者だった⁉ |長山先生の「危険予知」よもやま話 第28回(後編)
ドイツなどでは「ファスナー合流」が規則に?
長山先生:私がドイツに留学していた1955年頃にはまだなかったと思いますが、1969年の道路交通法規事典の中では“Reissverschlussprinzip”(ファスナー合流の原理)という用語が用いられていて、同一方向に進む車が多く、狭くなる道路で他車線に交互に合流する秩序として「ファスナー合流の原理」に従うとうまくいくと示されていました。 編集部:「ファスナー合流の原理」ですか? 物理か化学の用語みたいですね。道交法の事典にあるなら、その頃から規則にもなっていたということですか? 長山先生:「原理」という言葉が用いられているので、この時代はまだ法規ではなかったと思います。スウェーデンで歯車の標識を見た1979年頃もまだヨーロッパ諸国では法規化されていなかったと思いますが、1995年版のドイツの道路交通規則第7条4項には“Reissverschlussverfahren”(ファスナー合流の手順)として、以下のように明文化されています。「道路上において当該の進行方向への車線がもはやそのまま直進することが不可能であったり、または許されていなかったり、またはその車線が終わりであったりする場合には、それ以上進行が出来なくなった車両に対しては、この車両が隣接の進行可能な車線へ、直進している車両の後ろに交互に合流するするやり方で進路変更することが許される(ファスナー手順)」 編集部:交通規則なので、かなり堅苦しい文章ですね。でも、最後の“交互に合流するやり方で”というところがポイントなのですね。 長山先生:そのとおり、車線が減少するからといって闇雲に合流していいわけでなく、「1台ずつ秩序立てて合流しなければいけません」ということです。 編集部:なるほど。1台ずつということでは、長山先生がスウェーデンで感心した「歯車合流」と「ファスナー合流」は同じ意味ですね。 長山先生:「歯車合流」は正式な法規ではないと思われるので、単純に比較はできませんが、1台ずつ合流するという点ではたしかに同じです。ただ、「ファスナー合流」は“狭くなっている合流地点まで進んで合流する”のが大きなポイントになるので、その点は「歯車合流」にはない違いかと思います。 編集部:たしかに歯車の形からは起点や終点は感じられませんが、ファスナーの形からは先の交わる部分で合流するような意味が感じられますね。 長山先生:「ファスナー合流」については、ドイツ以外の国にも法規があり、私がざっと見た限り、合流の条件や手順には以下の特徴がありました。 1.狭くなっている先端で合流すること 2.直進車両が渋滞気味に列をなしていること 3.隣の車線の直進車と交互に合流すること 4.直進車の後ろに入ること(優先権が直進車にあるから) 5.高速道路及び一般道路の流入地点や合流地点だけでなく、工事現場などで車線が閉鎖されている場合にも該当する 編集部:日本でも、渋滞している本線に合流する際など、先で合流せずに手前で合流しようとする車がいて問題になっているようで、NEXCO中日本など高速道路会社では、交互合流を促す標識(上)を設置したり、合流部の途中から合流できないようにラバーポールを設置するといった施策をしているようです。 長山先生:先まで行って入れてもらえなかったら…という不安感から手前で合流しようとするのでしょうね。だから、ファスナー合流が可能となるためには、合流地点では優先権のある直進車両の側にも、必ず交互合流として1台は入れさせなければならないという意識を作らなければならないと考えます。交通の教則において記述し、キャンペーンをきっちりする必要があるのではないでしょうか。 編集部:そうですね。運転に慣れていないドライバーはなかなか積極的に合流できませんし、1台ずつ合流しているのに、優先意識からなのか譲らないドライバーもいますから、ドライバーとして必要なマナーとして、しっかり定着させたほうがいいですね。優先意識で思い出したのですが、地方の田舎道でY字路に差し掛かったとき、どちらが優先なのかはっきりしないことがありました。交通量が少ないので困らなかったのですが、どちらにも一時停止の規制はなくて、タイミングしだいでは出会い頭事故になると思いました。