地方創生✕Web.3は、日本再生の切り札となるか──自治体間の “ゼロサムゲーム” に陥らないために【2025年始特集】
「地方創生のトップランナー」のジレンマ
財政破綻寸前の状態からは立ち直ったものの、状況がすべて改善されたわけではなかった。最大の問題は、やはり人口減少だ。「島留学」で高校の生徒数は倍になったが、高校を卒業すると、進学や就職などによってほとんどが島を去り、都市部で就職していた。つまり、島の高校は廃校寸前からV字回復していったものの、島の人口、特に生産年齢人口の減少は徐々に進んでいく状況が続いていた。 海士町職員で、島前ふるさと魅力化財団 還流事業本部 本部長の青山達哉氏は海士町や全国的な地方創生に向けた取り組みについて、「自治体にとって人口は重要な指標。その意味において現状の地方創生やまちづくりの究極的な目的として、人口の社会増を目指すことが重要になっているのではないか」とストレートに語る(注:社会増とは転入が転出を上回る状態)。 海士町で生まれ、高校卒業後は京都の大学に進学、その後Uターンした青山氏は2020年に「大人の島留学」事業を立ち上げた。全国の若者を対象とした、3カ月または1年の期間を設定した「就労型のお試し移住制度」だ。これまでに500人近くを受け入れ、そのうちの約15%が実際に海士町に移住しているという。人口2000人強の町にとっては、大きな数字だ。だが青山氏はこう続けた。 「一方でまた、『大人の島留学』期間を終えた “卒業生” を輩出し続けてしまっている側面もある。もともとは島の高校の卒業生がどうすれば島に帰ってきてくれるかを考えて始めたのが『大人の島留学』だったという背景もあったが、今度は『大人の島留学』した後、また卒業生を輩出している。その時、私たち地域側の次の打ち手として、“そうした卒業生たちがどうすれば島に移住して(戻ってきて)くれるのか” を自然と考えてしまっていることに気づいた」
消耗しない関係性
今、日本各地で取り組まれている地方創生では「関係人口」の創出・維持が叫ばれている。地域の外に住んでいるが、その地域に関心を持ち、ときに地域を訪れ、地域の活性化にポジティブな影響を生み出す人たちとの関係づくりだ。 NFTをデジタル住民票として発行し、地理的な制約を超えたデジタル村民を関係人口として生み出した新潟県・旧山古志村は、Web3 / ブロックチェーンを活用した地方創生の最初期かつ代表的な事例として知られる。その後、各地の自治体でNFTを発行する事例が続いた。さらに今では、DAO(分散型自律組織)を活用し、関係人口の創出、関係性の維持・深化を目指す事例が増えている。 2023年11月から12月にかけて自民党web3PTが開催した「DAOルールメイクハッカソン」には、全国からDAOをベースにさまざまな取り組みを行っている事業者やDAOのソリューションを提供する事業者が参加し、DAO活用に向けた環境整備について議論した。そこにも地方の農業生産者と都市部の消費者を結ぶDAO、島への移住希望者の住宅問題解決を目的とするDAO、地方での進む空き家問題に取り組むDAOなどが参加していた。 青山氏も「大人の島留学」卒業生との関係性の構築にDAOを活かそうとしており、2024年11月に「Amanowa DAO」を立ち上げ、専用アプリをリリースした。 「Amanowa DAO」アプリでは、参加者は「クエスト」と呼ばれる課題にチャレンジし、クリアすると「AMAコイン」を受け取ることができる。クエストは運営側が設定するだけでなく、参加者もクエストを設定できる。つまり、クエストの設定・解決によって島を舞台とした共創を生み出し、単なるゲームではなく、リアルな島=町に新しい動きを作ることを狙っている。 「地方の取り組みのゴールが常に移住だと、関係性の構築は難しい。移住してくれるまで追いかけ回すような関係性は消耗するだけだ。『ふるさと納税をして欲しい』『いつか移住して欲しい』という地方が都市部の人たちに、ある意味無意識的に求めてしまっているような今の動きは長くもたない。住んでいるかどうかにとらわれない新しい地域経営のあり方を目指す必要があると考えた」とAmanowa DAOの狙いを青山氏は語った。