趣味と呼べるものがなく、推しもいません。人生の支えになるような何かを見つけるには?
文筆家として恋愛やジェンダーに関する書籍・コラムを多数執筆している、恋バナ収集ユニット『桃山商事』代表の清田隆之さんによる連載。忙しい日々の中、私たちには頭を真っ白にして“虚無”る時間も必要。今抱えている、モヤモヤやイライラも、ちょっと軽くなるかもしれません! 【画像】桃山商事 清田さんがおすすめ!“趣味”について考えるきっかけになる本
■趣味と呼べるものがありません…。人生の支えになるような何かを見つけるには? 【今月の“虚無っちゃった”読者のお悩み…】 私には趣味と呼べるものがなく、推しもいません。映画や読書や音楽などは好きですが、寝食を忘れて没頭するほどではないし、そのことを考えるだけで幸せな気持ちになれる、人よりも知識があると胸を張れる、というレベルでもありません。それを通して友情が生まれたり、「これがあるから大丈夫!」と思えたりするような、人生の支えになる趣味を見つけたいのですが…。どうしたらいいのかわからず、虚無ってショート動画を流し見する日々です。清田さんには、趣味はありますか? ライター藤本:今回のご相談は、「趣味と呼べるものがない」というもの。私自身、周りの友人と同じような話になったこともあり、とても共感できるお悩みでした。 清田さん:なるほど……自分は最近、やたらSNSに流れてくるカリスマホスト「軍神」さんの一言一句に心をかき乱され、気づけば軍神さんのショート動画ばかり見るようになってしまいました。 それはそれとして、自分も相談者さんと同じような悩みを抱えて悶々としていた時期があったので、すごく気持ちがわかるような気がします。 エディター種谷:えっ、清田さんもそうなんですか?! サッカーとかスポーツ観戦とか、趣味を楽しまれている印象があったので驚きです。 清田さん:自分は小さい頃からサッカーをやっていて、今でも20年近く所属している草サッカーチームで毎週ボールを蹴ったりしています。40~50代でもサッカーを楽しめるよう昨年からジムに通ってトレーニングもしているし、海外サッカーを観るのも好きで、夫婦で応援しているチームもある。確かに端から見たら、立派な趣味だと思われるかもしれません。でも自分としては、「単なるアマチュアのプレイヤーだし、海外サッカーに関しても大した試合数を観ているわけでもないので、趣味と言っていいレベルではない」というのが正直な感覚なんですよね…。 その背景には相談者さんと同じく、「寝食を忘れて没頭したり、知識があると胸を張れたりするようなものだけが趣味である」「趣味と呼ぶからには、そのことに対して造詣があり熱く深く語れなければいけない」というような考えがあるんだと思います。 でも、それでは趣味というものの捉え方があまりに狭く、ハードルも高すぎですよね。相談者さんにとっての映画や読書や音楽も、自分にとってのサッカーも、日常的に楽しんでいるものなのに、趣味じゃないのか?というと、そんなわけないじゃん!と。 むしろ、寝食を忘れて没頭したり知識があると胸を張れたりするようなものは、大谷翔平にとっての野球や藤井聡太にとっての将棋のようなもので(笑)、もはや趣味と呼べるレベルを超えちゃっているのではないか。だから多分、「熱く深く語れるものが趣味だ」みたいなイメージは罠なんですよね。「それにだまされないようにしましょう!」と、まずはその意識を共有したいなって思います。 ライター藤本:清田さんが今考える趣味の定義って、どのようなものでしょうか? 清田さん:言葉にするのは難しいですが……心が動くもの、モチベーションを生み出してくれるものならなんでも趣味と呼んでいいのかなって思います。人生にダイナミズムをもたらしてくれるもの、といいますか。自分もサッカー観戦をしていると、応援しているチームが勝てばうれしいし、負けると悔しい。試合に出られない選手のことを気にかけたり、監督の葛藤を想像したり…といろいろ気持ちが揺れ動くんですよね。趣味って、それだけでいいんじゃないかと思うんです。 ちょっとした興味や発見から日々の刺激が得られたり、人とのつながりが生まれたり、人生の支えになっていったりすることはきっといくらでもあるはず。自分も「趣味」を狭く捉えがち勢なので…もっと広くゆるく構えつつ、いろんな趣味を楽しんでいけたらいいなと思います! 文筆家 清田隆之 1980年生まれ、早稲田大学第一文学部卒。文筆家、恋バナ収集ユニット『桃山商事』代表。これまで1200人以上の恋バナに耳を傾け、恋愛やジェンダーに関する書籍・コラムを執筆。著書に、『おしゃべりから始める私たちのジェンダー入門―暮らしとメディアのモヤモヤ「言語化」通信』(朝日出版社)など。桃山商事としての著書に、『どうして男は恋人より男友達を優先しがちなのか』(イースト・プレス)などがある。 イラスト/藤原琴美 構成・取材・文/藤本幸授美 企画/種谷美波(yoi)