なぜK-1王者の武尊は世界王者を育てたボクシングの名トレーナーとコンビを組んだのか?
ボクシングジムに通い、ボクシング技術を学ぶキックボクサーは少なくないが、武尊は、これまでプロからボクシング技術を学んだことは一度もなかった。 「僕のパンチはキックでもムエタイでもボクシングでもない自己流。そのことでよかった部分も悪かった部分もあった。基礎からやらないのが、自分の強さでもあり、そこを崩したくもなかった。だから(自己流を)直すのではなく、いまの僕流のパンチにプラスアルファする意味で、基礎的部分を教わっている」 才能とセンスの塊である武尊は、おそらく、それを必要としなかったのだろう。 約3か月間教えてきた藤原トレーナーも、「のみ込みが早いうえに器用。日本ランカークラスでもすぐにできないようなことをすぐにやってみせる。非常にレベルが高い。パンチの質は重くて硬い。今はパンチを引くことも意識しているのでキレも出ている」と武尊のボクシングセンスを評価した。 その上で「右のオーバーハンドやひっかけ気味に打つ左フックの軌道など、ボクシングにはない武尊独特のパンチの持ち味もある。そこを生かしつつ、基礎的なパンチの軌道、より利かせるためのステップ、ポジショニング、ディフェンスへの連動などをアドバイスしている」という。ちなみに過去に藤原トレーナーが名城や東洋、日本チャンピオンクラスに教えて武器にさせてきたのはストレートだ。 武尊がボクシングを学ぼうと決意した背景にはもう一つ大きな理由がある。それは互いに対戦を熱望している那須川天心(22、TARGET/Cygemes)との世紀の一戦に向けての準備だろう。天心は昔から帝拳ジムに通い、元帝拳ジムのトレーナーで元OPBF東洋太平洋スーパーバンタム級級王者だった葛西裕一氏(51、ボクシングフィットネスジムのグローブス経営)からボクシング技術を学び、早ければ2022年にボクシングに転向すると噂されている。敵を知るには、まず天心のバックボーンとして存在するボクシングを知っておかねばならない。しかも、天心はサウスポー。その対策も付け焼刃では通用しない。 ――ファイターとしての幅を広げる今回の試みは、もっと大きな目標に向かうためか? そう聞くと、武尊は、こう答えた。 「目の前の試合に勝たないと次はない。目の前しか見ていない。レオナを倒すことしか考えていない。ただ、一歩、一歩、その先に、もっと大きいものがあるからこそモチベーションが保てているというのもある」 武尊は具体的な名前を出さなかったが「その先の大きいもの」とは天心戦に他ならない。契約の問題があり、このビッグファイトは、まったく具体化していないが、武尊は来る日に備えて、自らを高めたいと考えている。体重差があるが、ボクシング技術が向上すれば、格闘イベント「MEGA2021」(2月28日・東京ドーム)に参戦予定のボクシングの5階級制覇王者、フロイド・メイウェザー・ジュニア(米国)の対戦候補として浮上する可能性も出てくるだろう。