人の認知をハッキングする「ウソの飽和攻撃」とその対策
レプリコンワクチンに対する反対の意見を見ていくと、「体内でmRNAが増殖する」というところに懸念を感じているようである。反ワクチン論者は、「レプリコンワクチンを接種した者の体内でmRNAが無限に増殖し、そこから発生したウイルスや有害な物質が体外に出て、周囲の人を感染させる。シェディング(伝播)という現象だ」などと主張。真に受けた飲食店や、マッサージサロンなどが、レプリコンワクチン接種者の入店を拒否する張り紙を出すという騒ぎになった。 昔そんなアニメ映画を見たな、と記憶を探る。3編の短編で構成されるオムニバス映画「MEMORIES」(1995年)だ。その2番目の短編「最臭兵器」(岡村天斎監督)が、そんな話だった。 とある地方に立地する製薬会社の研究所。一人の研究員が、ちょっとした手違いで会社で開発中の薬を服用してしまう。その薬は軍事用に開発されていたもので、体からひどい臭気が発するように服用者の体質をつくり変えてしまう効果があった。 彼に近づく者は、あまりの臭気に悶絶(もんぜつ)・昏倒(こんとう)して倒れてしまう。誰も彼を倒すことも救うこともできない。強くなる一方の臭気に被害は拡大し、ついに政府は研究員を殺害して事態を収拾しようとする。殺されてたまるか、と東京へと向かう研究員――。 「最臭兵器」は基本的にドタバタギャグ映画で、オチも「それはなかろ」と言いたいヒドい(ほめ言葉)ものだったが、今回のレプリコンワクチンを巡る騒動が、まんま重なる。 子どもが、うっかり犬のウンチを踏んだ子を「えんがちょ」と言って避けるみたいな話だ。その意味では、大人の感性というのは子どもの時からいくらも進歩せず、そのまま一生続くものなのかもしれない。それにしても、ワクチンに対する忌避が「えんがちょ」に至るというのは、大人といってもいいかげん情けない存在なのだな、としみじみ感じる。 ●こんなしょうもないウソがなぜ広がるのか 前に書いた通り、新型コロナウイルス感染症のパンデミックは終わるどころか、社会に感染症がどっかりと居座ってしまったまま、5年が過ぎてしまった(「峰先生に聞く『2024年、マスクはすべきかいらないか』」)。 私は、健康な人生を全うしたければ、継続的に年に1~2回ワクチン接種を受けるしかない、と判断している。今後もワクチン接種を定期的に続けるつもりだ。 しかし「レプリコンワクチン接種者の体からウイルスが発散して、周囲の者を感染させるシェディングという現象」なんて、一体どこからそんな話が出て来たものやら、と考え、YouTube(ユーチューブ)の存在に行き当たる。 試しにYouTubeで「シェディング」を検索すると、うわあっ、関連動画が出てくる出てくる……。 とりあえず、再生回数の多い順に見ていったが、実にみんな勝手なことを言っている。「シェディングというような現象はない」とまともな解説をする医師もいれば、シェディングの存在を前提に「シェディングの治療法」を説く自称医師もいる。「シェディング被害とはこんなものだ!」というような動画もあれば、地方自治体関係者らしきアカウントが「シェディングの被害に注意喚起」というような動画をアップしていたりもする。 SNSとなると、もっと情報の質は落ちて「シェディングでは体から特有の臭いがする」と書いているアカウントがあったりする。「臭い」がキーワードになるあたりは、やはり子どもの「えんがちょ」を連想させる。 シェディングというウソ(ウソと言い切っていいだろう)は、そもそもmRNAワクチンが、ウイルスではなくウイルスのごく一部であるスパイクタンパク質のみを生成するということが理解できている者には通用しない。「病原体が体に入ると免疫がつく。つまり免疫がつくというのは体に病原体を入れるということだ」という、雑な理解をしている者が、「体の中でワクチン成分を増やすレプリコンワクチンを接種すると、体内でウイルスが増えて体から排出され、回りに感染する」というウソに引っかかる。 では、なぜそんなウソが、世界的に広がるのだろうか。