「自然に曲がる」を追求 新型Mazda3 マニアックに試乗解説
そこで、TBAの欠点を潰すことを考えた。TBAの構造はこんな感じだ。人間のバタ足のように動く2本のアームがある。クルマ側が股関節、タイヤ側が足首方向。こういうアームをトレーリングアームと言う。このトレーリングアームの根元に近い部分に捻りばねを仕込んでバタ足の動きを拘束してスタビライザーの代わりにするのと同時に、脚が開いたり閉じたりする方向の剛性の低さを補う。H字の両サイドの縦棒が脚で左右をつなぐ横棒が捻りばねだ。 スラビライザー効果については乗り心地の悪化を嫌ってあまり強めたくないので、捻りの剛性は上げたくないが、横方向のつっかい棒としての剛性は上げたい。そこでマツダはメガホンを2つ繋いだ様な形状の捻りばねを考え出した。中央が細く両サイドで太い。前回の記事でも書いたように、これによってタイヤの支持剛性は78%も向上したと言う。現在パテント申請中とのことだ。 もう一点、TBAには弱点があって、股関節部分でボディと接続されるリヤサスペンションアームは、路面からの入力がそこにかなり集中する。だからゴムブッシュの容量を大きく取らないと振動で大変なことになる。しかしここのゴム容量を大きくとれば、いくらアームの変形を防いでも、アームそのものが動いてしまい、タイヤの支持剛性がガタ落ちする。マツダはデミオの年次改良の中で、その最適点を見つけたらしい。振動を遮断しながら支持剛性を維持できるようになった。筆者はクルマに乗ってその効果は確認したが、実は何をどうやってそれができるようになったかは、まだ納得行く説明を受けていない。次の機会にぜひ確認したいと思っている。
●まとめると
さて、全体を振り返ろう。まずはタイヤの設計を見直して適切な変形を織り込み、フロントの回頭を素直にした。クルマにヨーがついて後輪がサイドフォースを発生するまでの混濁をボディの強化などで防ぎ、またリヤタイヤの支持剛性を新開発のTBAで向上させた。それらの全ての段階を連続した動きに仕立てるために、場面場面を切り出した性能評価を止めて、一連の動きの過渡的変化を注視するようになった。そういう開発方向の大転換で、Mazda3はこれまでの日本車の水準を凌駕するシャシーに仕上がった。次の本気はSKYACTIV-Xで見せてもらいたいと筆者は思っている。 --------------------------------------- ■池田直渡(いけだ・なおと) 1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。自動車専門誌、カー・マガジン、オートメンテナンス、オートカー・ジャパンなどを担当。2006年に退社後、ビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。現在は編集プロダクション「グラニテ」を設立し、自動車メーカーの戦略やマーケット構造の他、メカニズムや技術史についての記事を執筆。著書に『スピリット・オブ・ロードスター 広島で生まれたライトウェイトスポーツ』(プレジデント社)がある