「自然に曲がる」を追求 新型Mazda3 マニアックに試乗解説
クルマが曲がるときタイヤはどうなっているか
さて、面倒な話が好きな人のために以下を書く。クルマが曲がるという現象はそもそもどういうことなのか? ちょっとそれを時間軸に沿って書いてみたい。ひとまず加減速の話は外す。外さないと大変なことになるので、これから書く部分については、しかるべき加減速が常識的に伴っているものと考えていただきたい。 直進からハンドルが切られた時、当たり前のことだが前輪の向きが変わる。時間軸を短く取って行くと、最初に起こるのはトレッド面(地面との接地面)のねじれだ。捻られたタイヤはタイヤ自身が捻られる力と路面から横向きに押される力の合成力でトレッド面が変形する。消しゴムを使っている時をイメージしてもらえば良い。
一見円筒に見えるタイヤだが、実は空気の入った風船なので、トレッドの中央はショルダー部より出っ張っている。だから静止状態のタイヤは、接地点中央が一番強く路面に押し付けられ、中央から離れるほど接地圧が低くなる。接地面は四角形ではなく角丸の四角形になる。丸ではなく四角になっているのはラジアルタイヤの外周、トレッド面の下に仕組まれたベルトのタガによって、中央が膨らむことを押さえ込まれているからだ。中央を膨らませようとする空気の力とベルトの拘束力の拮抗によって、角丸の四角になっているわけだ。 これが捻りと横力で変形させられるとどうなるか? 例えば左にハンドルを切った時、接地点中心は、タイヤの変形によって曲がる方向と同じ左、かつ後方へ移動する。トレッドが変形して接地圧分布が変わり、接地面の形状は角丸の三角形になる。非常に大雑把に言うとこの中心点のズレがテコになってハンドルの手応えを生む。元の中心点が支点で、移動した接地中心が力点、ステアリング系のメカニズムを経てハンドルが作用点だ。サスペンション系のオフセットも重要だがタイヤだけに着目するとそうなっているのだ。 同時にタイヤの中心線とタイヤの進行方向にズレが生じる。これを「スリップアングル」と言う。トレッドの部分部分を見れば接地圧の高いエリア、つまり接地中心付近はグリップが高く、そこから離れて行くほど滑りが生じる。ゴムは部位毎に変形が生じるから微細に見れば場所によって滑り率が変わるのだ。 転動するタイヤにスリップアングルが付くと、タイヤに対する横向きの力、サイドフォースが発生する。ちなみにこのスリップアングルに対してどの程度の比率でサイドフォースが発生するかを「コーナリングパワー」という。要するにグラフの傾き角度だ。 厳密に見ると、タイヤ自体に対して真横であることと、クルマ自体に真横であることは異なる。横向きの力にはサイドフォースとコーナリングフォースと言う言葉があるが、タイヤ基準がサイドフォース、車体基準がコーナリングフォースとなる。