外科医がハマった離島の面白さ ~グローバルな視点で格差に挑む~
◇消化器・一般外科医は2割以上減少
高齢社会では高齢者特有の疾患や病状に対応する必要があります。一般外科医は虫垂炎やヘルニアから、消化器系疾患や外傷などの外科的な緊急処置や術後の管理、がんの早期発見やポリープ切除、複数の慢性疾患、緩和ケアまで対応します。高齢化が加速し、医療資源が限られている地域において、幅広い診療能力を持つ一般外科医は不可欠です。 高齢化で消化器・一般外科医の業務量は以前に比べて格段に増えています。医師の総数はこの20年間で3割以上増加し、どの診療科も医師数が増えているにもかかわらず、「消化器・一般外科医」だけは2割以上減少*1しています。外科医不足の問題は過疎地や離島だけではありません。日本外科学会の調査*2によると国内の病院で「十分な数の外科医がいる」と答えたのは全病院の4分の1未満で、50%以上の病院が「人手不足」と回答しています。国内の多くの地域では、私が離島で感じているのと同じように外科医不足の問題に直面しているのです。若い力が必須なのですが、近年、外科専攻医の志望者が10人以下の都道府県が半数を占め、中にはゼロのところもあり、深刻な状況となっています。
◇「地域外科医」を選択肢の一つに
遠隔地や離島の医療は、ICT技術の進歩や政策により日々変化しています。地方での外科医療の現状や重要性をより多くの人に知ってもらい、地域で働く一般外科医が外科医のキャリア選択の一つとして広がっていけばよいと思っています。まずは地方の医療現場の現状や、働く外科医がどのようなことを行っているかを見に来ていただき、実際に現地での生活を体験してもらうことで地域医療の固定観念が大きく変わるかもしれません。 聞き手・文:稲垣麻里子、白川礁(聖隷三方原病院 研修医)、企画:河野恵美子(大阪医科薬科大学医師) 浅野志麻(あさの・しま) 1998年青山学院大学国際政治経済学部卒業、2004年東京医科歯科大学医学部卒業。沖縄県立中部病院に研修医としての勤務を経て、2008年沖縄県立宮古病院外科に勤務。2022年消化器外科部長就任。2020年University of Sydney, School of Public Health修了、公衆衛生修士 MPH取得。2023年京都大学大学院医学研究科 社会健康医学系専攻 医療経済学分野博士後期課程在学中。地方・地域に住む人々のための外科医療とは何か、世界に発信できる地域外科医療の在り方を確立するため、臨床と研究の両方からアプローチしている。 *1)厚生労働省「令和4(2022)年医師・歯科医師・薬剤師統計の概況」 *2)「地域医療における外科医不足の実態調査」(2023年5月)