外科医がハマった離島の面白さ ~グローバルな視点で格差に挑む~
◇浸透する平等主義
豪州では若い学生たちと一緒に授業を受け、論文を書き、試験を受けました。医学部に入る前に国際経済学のゼミに所属し興味があったことから、医療経済学の研究にも関わらせてもらいました。そこで学んだのが「格差の数値化」です。例えば、がん患者の生産性損失の研究では、がんで早く亡くなることで社会全体にどのぐらい損失があるかを残された時間からお金に換算できます。 また豪州では平等主義が社会に浸透し、公平な扱いが原則となっています。大学では学生が教授に対して「プロフェッサー」を付けずに下の名前で呼び合い、レストランやスーパー、身近な場所のあらゆる場面で平等意識や公平性を感じます。経済的な格差があったとしても、みんなで解決しようという共通の認識があります。日本だと過疎地域で治療が受けられない人がいても、自己責任で片づけられてしまいがちですが、豪州では国民の間で格差をなくし、誰でも治療が受けられるようにするという社会原則の下でベクトルが同じ方向に向いているのです。 帰国後、オックスフォード大学の「グローバルサージャリー」の講座をオンラインで受講しました。欧州とアフリカを中心に、外科医だけでなく看護師や経済学者など、さまざまな国や職業の受講生が集まり、主にアフリカの国々での外科医療の格差の問題について、イノベーションや労働力、インセンティブといった異なる視点でセッションを重ねました。最後に論文提出があり、宮古島のコロナの影響や対策について2カ月かけて書き上げました。グローバルサージャリーや地域格差に関する研究は、昨年の4月から京都大学大学院で受け入れていただき、宮古島で勤務医として働きながら京都に通って研究を続けています。
◇豪州の地方医療行動計画を日本でも
地域の医療格差はオセアニアでも深刻で、豪州とニュージーランドの地方住民は都市部の住民と比較して健康状態が悪く外科的な問題を多く抱えています。豪州の外科学会では「ルーラルサージャリー(地域外科)」を一つのセクションとして確立し、2020年には地方医療の公平性戦略行動計画「Rural Health Equity Strategic Action Plan」を発表しました。この計画は豪州とニュージーランドの地方、農村、地域社会において、格差のない持続可能な外科サービスを構築することに重点を置いてつくられています。地方医療に適した外科医を確保し、地方特有のニーズに応じた訓練や地方向けのカリキュラムの開発、研修医が地方での実務能力を身に付けるための支援を行うことをシステム化するといった内容です。日本でも日本外科学会内に対策委員会をつくり、同じような流れをつくっていけるのではないかと考えています。 2020年以降、海外ではそういった活動が活発になり、西太平洋地域でもチームをつくり、国境を越えて格差のない安定した外科医療を提供する取り組みが始まっています。日本は医療先進国でありながら格差は解消できていません。日本の現状を積極的に発信し、情報を共有することで何かヒントが得られるかもしれません。