世界ビール最大手のインベブが10億ドル投資 「有害な飲酒」どうやめる? SDGsが進むソーシャルマーケティングとは
マイボトルにマイバッグ、エアコンの控えめな温度設定、お風呂の残り湯の利用。持続可能な未来のためになるとわかっていても、なかなか行動に移せない、続かないという人も多いのでは。行動科学とマーケティングを組み合わせた「ソーシャルマーケティング」は商用のマーケティングの手法を社会課題の解決に応用し、「何かを買いたくなる」のと同じようにして、社会や自然にとって良い「ソーシャルグッド」につながる行動を取るようにするもので、企業の活用が広がりつつある。同志社大学商学部教授でソーシャルマーケティング研究センターの瓜生原葉子センター長に、ソーシャルマーケティングのポイントや海外の先進事例について解説してもらう。
「近代マーケティングの父」フィリップ・コトラー氏が命名
ソーシャルマーケティングという言葉の生みの親は、みなさんもよくご存じの「近代マーケティングの父」と呼ばれる米経営学者、フィリップ・コトラー氏です。 その実践は、コトラー氏によって名付けられるより昔、1960年代に発展途上国における家族計画から始まり、公衆衛生の分野で発展してきました。国民の健康増進を図るためには、前回もお話しした定期的な運動やアルコール摂取量を減らすこと、禁煙、バランスの取れた栄養摂取などが大切ですが、啓発して共感や認知を高めることはできても、「行動変容」まで促すことは難しかったのです。大切なことを頭でわかっているだけでは健康になれません。行動変容にまで至って初めて課題解決につながります。そこで、行動変容を確実にする方法としてソーシャルマーケティングが注目されました。 1980年代には世界保健機関(WHO)がソーシャルマーケティングを取り入れ始めました。1990年代に入るとコトラー氏のおひざ元、米国で医療政策の柱の一つとして定着していきます。 もっとも広く、深く活用されているのは英国です。2004年に政府でレビューが行われ、ソーシャルマーケティングの実効性の高さが確認されました。それを受けて2006年に国立ソーシャルマーケティングセンターが設置され、医療政策にとどまらず、あらゆる領域でソーシャルマーケティングに基づく施策立案・実行が進められています。活用が進んだカギはトレーニングです。最初の10年間で約2万人もの政府内・自治体の政策立案者がソーシャルマーケティングの研修を受け、その後、企業にも拡大しました。多様な人々がソーシャルマーケティングを理解し、課題解決に使っているのです。