世界ビール最大手のインベブが10億ドル投資 「有害な飲酒」どうやめる? SDGsが進むソーシャルマーケティングとは
ソーシャルグッドな行動変容につなげて新市場開拓も
ビジネスパーソンの読者の方が多いと思いますので、企業の実践例を2つ、ご紹介しましょう。 1つ目は世界ビール最大手のアンハイザー・ブッシュ・インベブ(ABI)の「スマートドリンキング(賢い飲酒)」というプロジェクトです。ABIはバドワイザー、ヒューガルデン、コロナビールなど500を超えるブランドを世界150カ国以上で販売しています。ベルギーのルーベン、南アフリカのヨハネスブルク、中国の江山、米オハイオ州コロンバスなど6都市をパイロットとして選び、過度な飲酒や未成年飲酒などの有害な飲酒を10%削減するソーシャルマーケティングのプログラムを2016年にスタートしました。アルコール消費についての社会規範を変え、「適度な責任ある飲酒」を広げるために、計10億ドルが投資される計画となっているという大型プロジェクトです。 パイロットの6都市では消費者が強いアルコール飲料をビールに置き換えたり、ノンアルコールビールの消費を増やしたりするなどの行動変容が起こり、ABIは2022年に総収益577億9000万ドル、11.2%の増収を達成しました。アルコール消費に対する社会規範を変えること、つまりソーシャルグッドに焦点を当て、行動変容につながる投資をしたことで、企業に責任あるイメージが構築されて消費者の信頼を獲得するとともに、新たな市場も開拓され、売り上げの増加につながっているのです。 2つ目の事例は、石油メジャーの英シェルが手掛けた「ルーム・トゥー・ブレス(呼吸のための部屋)」というプログラムです。多くの低所得国では、薪(まき)ストーブを使った調理によって室内の空気汚染が生じ、肺の疾患、呼吸器系のトラブル、目の病気などの大きな健康被害をもたらしていました。そこでシェルはクリーンな調理用ストーブを開発。さらにそれを使うという行動変容を促しました。新型ストーブの利点を伝えるため、インドの地方の村などで実演やストリート劇、インタラクティブなゲームなどを通じ、地域ごとに異なるメッセージングやプロモーション戦略を採用したソーシャルマーケティングを展開しました。 2009年から2012年にかけて30万人にリーチし、認知度が30%以上向上。さらにグラミン・クータというマイクロファイナンス機関とパートナーシップを組み、ストーブを週1~2ドルの分割払いで購入できる仕組みを構築して価格の障壁も取り除いた結果、実際に1万1447台もの新型ストーブが稼働することになりました。社会課題の解決を目的に据え、自社のコア技術を用いて新サービス・商品を創出することで、社会的価値と経済的価値の両立を実現しています。