阪神開幕白星発進の裏に矢野監督「9回打ち切り用采配」とフロント準備力
サンズは昨年の開幕は2軍スタートだったが、開幕第8戦目となる6月27日の横浜DeNA戦で“ハマの小魔人”山崎から逆転3ランを放ってクリーンナップに定着。8月までは得点圏打率が4割を超えるほどの活躍でチームの危機を救った。だが、9、10月は、打率.244、得点圏打率は.218と大失速。トータルで打率.257、19本、64打点の成績に終わっていた。特に執拗な内角攻めに苦労した。だが、この日は、第1号を放った打席で、1球シュートで内角をえぐられたが、崩れることはなかった。高代氏は「オフにサンズはデータを洗い直して対策を練ってきたのかもしれない」という。 そしてゲームを締めたのが矢野監督の「9回打ち切り用」采配だった。指揮官がジャンバーを脱いでベンチを出たのが8回である。 サンズの価値ある2発目のアーチで1点をリードした8回裏の守りから選手を“総とっかえ”したのである。レフトのサンズに代えて板山、右中間の当たりに足を滑らせて処理を誤ったライトの佐藤に代えて江越、三塁に山本を入れ、一塁のマルテを下げ三塁の大山を一塁へ。すでに途中から二塁にはプロ初安打をマークした中野が入っており、スタメンの8人中、5つのポジションを代えたのである。 今季は新型コロナ対策として9回打ち切りの特別ルール。8回の打順は、6番の佐藤で終わっており、延長がないことを見越して守備を固めたのである。まさに「9回打ち切り用」の大胆采配だった。 その選手交代が吉と出る。8回二死一塁から青木の一、二塁間を襲う強烈な打球を大山が飛びついて止めたのだ。マルテのままなら抜けていただろう。9回はスアレスが、先頭の山田を出塁させたが、村上を三振、内川を併殺打に打ち取ってゲームセット。 守備の4人代えは、本来あるべき姿ではない。だが、阪神は、この日も守備でミスが目立った。失策がついたのは2つ。3回無死一塁から山田の三遊間の打球を大山がハーフバウンドでさばこうとして弾いたエラーと、4回先頭の塩見のショートゴロを木浪が悪送球したもの。だが、高代氏に言わせると「記録に残らないミスがあった」という。 「2回に糸原が2つのミスをした。西浦の打球は捕らなければいけないし、中村の詰まった打球を併殺にできなかったところも記録に残らないミス。詰まった打球を待って捕るから、ああいうことが起きる。中村の足を考えると、糸原が前にダッシュしていれば併殺にできたプレー。判断ミス。藤浪を救ってあげねばいけなかった」 高代氏が指摘したのは、2回一死一、二塁から西浦の強烈な打球を糸原が弾いた場面と、そのことで一死満塁となり、中村のドンつまりのゴロを併殺打にできなかった場面。糸原は、打球を待って処理したため一塁がセーフになり併殺崩れの間に同点となった。 「大山も併殺にしようと焦って前に出てボールを弾いた。冷静に判断して、ひとつのアウトでよかった場面。開幕戦の緊張も影響しているのかもしれないが、そういう判断は守備の基本。チームの守備の不安は、まだ解消されていないように見えた。そのあたりのリスクと9回打ち切りを計算に入れて矢野監督は8回から思い切って守備固めに動いたのでしょう」 昨年は12球団でワーストとなる失策数。キャンプでは臨時コーチに元巨人の川相氏を招き、守備力の向上に務めたが、また解消できていない不安要素を矢野監督はベンチワークでカバーしたのである。