スキマバイト急浸透、良いこと?悪いこと?◆「日雇い派遣復活」の声も、専門家分析 #令和に働く
空き時間に単発で働く「スポットワーク(スキマバイト)」が急速に浸透している。ピンポイントで人手を確保したい企業と、隙間時間に稼ぎたい働き手が即座にマッチングできるようになり、国内の総ユーザー数は2000万人を突破した。人手不足にあえぐ日本にとって、スポットワークの浸透は「良いシナリオ」なのだろうか。「新しい働き方」の実態を探った。【時事ドットコム取材班キャップ 太田宇律】 【画像】記者のスマホに表示された「タイミー」の求人情報 ◇ずらりと並ぶ「即日バイト」 「ランチタイムの洗い場スタッフ募集 12時15分~14時半、2163円」「倉庫内軽作業 体力に自信のある方」―。記者がスマートフォンで仲介アプリ「タイミー」を起動すると、東京都内でその日のうちに働ける職場と仕事内容が数十件表示された。居酒屋、コンビニ、工場…。並んでいるのはどれも、短期・単発で働く「スポットワーク」の求人だ。 仕事ごとに応募できる残り時間がカウントダウンされており、「未経験者歓迎」の仕事もあれば、調理経験やレジ業務経験などが「必須」と書かれているものもある。応募後に選考を受ける必要はないが、タイミーではキャンセルや遅刻をしたユーザーに「ペナルティポイント」が与えられ、累積するとアプリの利用停止などの罰則を受ける仕組みだ。 ◇「気軽さ」魅力、大企業も続々参入 働き手にとって、スポットワークの最大のメリットは、履歴書や面接なしでその日のうちに働くことができ、報酬まですぐに受け取れる気軽さにある。例えば、仲介アプリ大手の「タイミー」では、働き手への報酬をいったんアプリ運営企業が立て替える形で「報酬の即日払い」を実現している。雇用企業は立て替え分に加え、働き手への報酬金額の3割を「サービス利用料」としてタイミー側に支払う。 スポットワーク仲介業はかつてない活況を見せている。「タイミー」「ショットワークス」「ワクラク」「シェアフル」の4サービスのアプリ登録者総数は、2019年末は約330万人だったが、今年9月時点で2000万人を突破した。タイミーは今年7月に東証グロース市場に上場を果たしたほか、LINEヤフーやメルカリといった大企業も続々と参入。自治体との事業連携も始まっており、「スポットワーカー」は今後も増加していきそうだ。 ◇雇用企業側のメリットは 「深刻な少子高齢化で、人手不足に悩む雇い主側にとっても、スポットワークにはさまざまな魅力がある」と説明するのは、関連事業者で作る業界団体「スポットワーク協会」(東京)の後藤一重事務局長だ。必要な働き手をその日のうちに確保できるスピード感に加え、採用や労務管理に掛かる費用も節減が可能。人材派遣と違って働き手は仲介企業の従業員ではないため、魅力的な人材の長期雇用化、つまり「引き抜き」がしやすい点もメリットだという。 実際に、「シェアフル」が2024年8月、自社アプリのユーザー6万人余りを対象に実施したアンケートでは、全体の23.5%が「スキマバイトがきっかけで長期の仕事に繋がった」と回答している。このうち61%がアルバイト・パートとしての長期採用で、スポットワーカーから正社員になれた人も22%いた。 24年4―6月期の「労働力調査」(総務省統計局)によると、労働時間が週35時間未満で、もっと働きたいと考えている「追加就労希望就業者」は国内に約195万人おり、前年同期比で約14万人増加している。後藤事務局長はこうした点を踏まえ、「日本には、こうした働き手や『すき間時間』のある学生、長時間でなければ働ける高齢者など、『短時間なら働けて、働きたい人』がまだまだいる。そうしたニーズをとらえることで、日本の人手不足改善に大いに貢献できると考えています」と話す。