スキマバイト急浸透、良いこと?悪いこと?◆「日雇い派遣復活」の声も、専門家分析 #令和に働く
◇「日雇い派遣」の復活?
ただ、新しい働き方にはトラブルもつきものだ。「作業の内容が事前に聞いていたものと違った」「予定時間よりも早上がりさせられ、その分の賃金がもらえなかった」―。市民団体「非正規労働者の権利実現全国会議」(大阪)には近年、こうしたスポットワーカーからの相談が寄せられるようになったという。 団体の事務局長を務める村田浩治弁護士は「いわゆる『日雇い派遣』は雇用の不安定さが問題視され、12年の法改正で原則禁止されたが、あのとき起きていたのと同じ問題が復活したような印象がある」と指摘。「雇用契約を結ぶのは利用企業側で、アプリの運営側はプラットフォームを提供しているだけ…という立て付けだが、利用企業側には雇用主としての責任感や自覚が希薄に見える」と憂慮する。 反社会勢力が犯罪の手伝いをアプリで募集し、知らないうちに巻き込まれる恐れもある。前出の「スポットワーク協会」もこうしたトラブルやリスクを懸念しており、スポットワークを巡る苦情を受け付けるコールセンターを設置し、各仲介事業者に向けたガイドラインを策定。今後は、悪質業者の新規参入を防ぐ仕組みも検討しているという。 ◇「自浄作用働くか注視」川口大司教授 スポットワークの流行は、働き手不足にあえぐ日本経済にとって良いことなのか、それとも悪いことなのか―。労働経済学を専門とする、東京大大学院の川口大司教授にインタビューした。 ―スポットワークの急浸透をどう見ていますか。 浸透の背景にあるのは人手不足ですが、テクノロジーの進歩で、これまでできなかった労使間の高速マッチングが可能になったという要素もある。効率性が改善したという意味では、日本の労働市場にとって良いことと言えるでしょう。若者がスポットワークを通じていろいろな仕事を経験できたり、正社員への転換に繋がったりするのであれば、それは「良いシナリオ」です。 ―懸念される「悪いシナリオ」とは。 スポットワークだけをしていても、専門的なスキルは蓄積しにくいですよね。雇用契約を結んでいるので、労災の対象にはなりますが、健康保険や厚生年金などの社会保険に加入できない問題もあります。スポットワーカーは言わば「究極の非正規」ですので、更なる格差拡大に繋がる懸念があります。 他にも、例えばスポットワークの運営側が利用企業と結託して、労働者の賃金相場をこっそり押し下げたり、アプリ上の表示を操作して、特定企業の求人に応募が集まりやすくしたりする可能性はあると思います。運営企業同士で、サービス利用料を高止まりさせる「カルテル」が行われる恐れもありそうです。 ―そうした事態を防ぐにはどうしたらいいのでしょう。 まずは、業界による自浄作用が働くかどうか。同じ企業で働き続ける正社員とは違い、スポットワーカーが労働組合を作るのは困難です。コールセンターやガイドラインによって、問題を早期発見して改善する仕組みを作り、どれほど透明性を上げられるかが今後問われるでしょう。 ただ、自浄作用にも限界はあります。今後の展開によっては、新しい働き方に合わせた規制や法整備、公的機関が客観的に監視する仕組みといったものが必要になっていくかもしれません。 ―スポットワークで働いている人、これから働きたい人へアドバイスをお願いします。 報酬の不払いや労働条件の不利益変更など、何か働く上で困ったことがあったら、地方の労働局など公的機関に相談してみてください。自分には労働者としてのどんな権利があるのか、問題が起きたときにどういったことができるのか、知っておくことが重要だと思います。 この記事は、時事通信社とYahoo!ニュースの共同連携企画です。