子どもの記憶力が低下する悪い習慣「ながら勉強」の恐ろしさを開成番長が解説
「ながら勉強」は集中力の低下にもつながる
そしてさらに、実は「ながら勉強」にはもう1つ怖い問題点があります。それは、そのときにやっている勉強の質が低下するだけではなく、長期的に見て脳の働きを悪くしてしまう可能性があることです。 スタンフォード大学の研究チームがこんな実験を行いました。平均21歳の若い男女80人を集めて、さまざまなものが映った映像を記憶して、どれくらい覚えているかを調べました。その際に、脳波(EEG)で脳の活動を計測し、目の動きも観察して、参加者の注意力の変化をチェックしました。その結果、「注意力が散漫になっていた人ほど覚えられる量が少なかった」という当然の結果になりました。 この実験の重要なポイントはここからで、80人の参加者全員に「普段からどれくらい気が散りやすいか」「マルチタスクをどれくらい行っているか」などのアンケートを行い、分析を行いました。その結果、「普段から複数のメディアを同時に見たりする『マルチタスク』をしていた人ほど集中力が低く、気が散りやすい」という傾向がわかりました。 つまり、日ごろからマルチタスクをしている人は集中力が衰えて、いざ集中して記憶しようと思っても、気が散りやすくて覚えることができないと考えられます。 私たち指導者は、授業中に集中できていない子は見ていてわかりますが、やはりそういう子は教えたことをなかなか覚えられず、成績が上がりません。SAPIXで最上位クラスと最下位クラスの両方を指導したときを思い出しても、授業中の生徒たちの集中力にはハッキリとした差がありました。 個別指導なら集中力が切れたときにサポートすることもできますが、集団授業の中では限界があり、結局本人の集中力が成績に直結してしまうということですね。
日常生活が集中力に違いを生む
そして、その集中力がある子とない子の違いは、もしかしたら日常生活の中にあるのかもしれません。例えば、リビングでテレビをつけっ放しの状態でマンガを読んで、あっちを見たりこっちを見たりしている子は、そういう注意散漫な状態に脳が慣れてしまって、集中力が衰えてしまうのはなんとなく納得できる話です。 一応補足しておくと、この研究からわかったことはあくまでも相関関係で、マルチタスクが原因で集中力が衰えるとは断言できないと研究者たちも言っています。元々いろいろなものに興味が移りやすい注意力散漫な人が、マルチタスクを好むという逆の因果関係もあり得るからです。 ただ、「使わない能力は衰える」「繰り返す行動は習慣になる」という人間のメカニズムからすると、集中力は使わなければ衰えるし、マルチタスクを繰り返したらそれが習慣になるという可能性は高いと思います。ですからマルチタスクはせずに、一つひとつの作業に集中する習慣を作ったほうが、勉強した内容をすぐに覚えられる、記憶力が優れた人になるためにはよいのだろうと思います。