【毎日書評】「叱る快感」依存に気をつけて。パワハラをする人の間違った思考ループとは?
「人材育成や子育てに必要な、積極的に行うべきポジティブな行為」と捉えている人もいらっしゃるでしょう。しかしその一方には、「絶対にしてはいけないネガティブな行為」とか、「できるだけしないほうがいいけれど、相手のためを思えば避けられない」などの考え方もあるはず。 いずれにしても「叱る」という行為は、なかなか難しいこと。だからこそ、多くの方が「叱り方」について悩んでいるわけです。そこでご紹介したいのが、『「叱れば人は育つ」は幻想』(村中直人 著、PHP新書)。 著者は臨床心理士として、「叱る」という行為と向き合ってきた人物。また、心理学や脳・神経科学などの専門的な治験からも、この行為のメカニズムについて探究してきたのだそうです。 その結果、世間一般に信じられているよりもはるかにこの行為には“効果がない”ことがわかり、また叱らずにはいられなくなる依存的な状況を引き起こし得るものだと考えるようになりました。(「はじめに」より) そういった経緯から、本書おいて著者は「叱る」というテーマのもと、4人の識者と対談をしているのです。そのため、よくあるハウツーとは違い、読者に突きつけられる本質的な「問い」が詰まっているそう。また、「叱る」に関する実践問題集であるともいえるようです(しかも、解答集ではないところがポイント)。 まずは第1章で「叱る」についての著者なりの知見が明示され、第2章以降が対談になっているという構成。 きょうは人材開発・組織開発論の第一人者である経営学者、中原 淳氏との対談を収録した「第3章「『叱る』と『フィードバック』の違いとは? 中原 淳×村中直人」のなかから、仕事と叱り方についての要点を抜き出してみたいと思います。
「叱る」ことの快感、中毒性
著者は「叱る」を掘り下げていろいろ知っていくにつれ、その行為の依存性の高さに着目するようになったのだそうです。 いうまでもなく叱るのは、相手が悪いことやダメなことをしていると思うから。しかしその際には、報酬系回路が活性化される可能性がきわめて高いわけです。ちなみに、脳の報酬系回路においてドーパミンという神経伝達物質が重要な意味を持っているのは有名な話。 村中 ドーパミンはよく「快楽物質」と言われますが、厳密には「欲しい」「やりたい」といった欲求を支える働きをする神経伝達物質で、未来に期待することへの高揚感や充足感で人間の行動に影響を及ぼしているんです。(87ページより) いい影響としては、「やる気を起こす」「活動的になる」「学習能力を向上させる」などが挙げられるでしょう。しかし報酬系回路は過剰な刺激に乗っ取られてしまうと、欲求充足を求めて反復せずにはいられなくなることもあるというのです。すなわち、そうして起きるのが「依存」。 つまり、「叱る」ことに快感を覚え、中毒状態に陥ることもあり得るということです。たしかに、パワハラが横行するような状況には、こうした問題が関連しているようにも思えます。(86ページより)