【毎日書評】「叱る快感」依存に気をつけて。パワハラをする人の間違った思考ループとは?
パワハラは会社の未来を潰す
しかし、パワハラ防止法や、ネットの誹謗中傷対策として侮辱罪が厳罰化されれば問題が解決するというわけではありません。もちろん、抑止という意味においては罰則もひつようではありますが、禁止して取り締まったり罰したりするだけでは根本的な解決にはならないからです。 この点について著者は、「法制度で押さえつけるというやり方は、国や社会が強圧的に「叱る」を行使していることなので、国ぐるみの<叱る依存>状態になってしまう」と指摘しています。そしてこのことに関連して興味深いのは、「パワハラは会社に未来を潰す」という中原氏の発言です。 中原 パワハラをする人って、「パワハラしている」という自覚がないことのほうが多いのです。なぜなら、よかれと思って「指導している」と思っており、それが、相手や周囲から「受容されている」と思っているから。よかれと思って「しょうがないな、私がガツンと言ってやる」と思っているのです。気持ちよいのです。感謝されている、と思っている場合もあります。(98~99ページより) つまりはそれこそが<叱る依存>状態であり、それは繰り返されるものでもあるといいます。最悪の場合には、職場内にパワハラが「感染」していくことも考えられるでしょう。 しかし、やられる側は激しいダメージを受けることになります。それが、メンタルダウンや離職につながることも考えられますが、人手不足の昨今では、辞めていく人に代わる新たな人材を採用することも困難。しかも離職が続けば事業が回らなくなるため、結果的にパワハラが会社を潰すことも考えられるということ。 叱れば気持ちよくなり、自己効力感も高められるため、ますます言動が強化されていくことになります。そして、それがどんどん他人に感染していくわけです。誰かが指摘して修正されればなんとかなるかもしれませんが、まわりはなにも口にできず、叱る人が裸の王様のような状態になってしまうことのほうが多いもの。しかもそういう人ほど、自分が会社にどれだけの不利益をもたらしているか、まったくわかっていないはずです。 中原 パワハラ上司のもとでメンタルをやられた部下は、働けなくなり、辞めていきます。いまはソーシャルメディアを通じて情報が簡単に発信され、拡散されます。「あそこの会社はパワハラがひどい、ブラック企業だ」といった評判が拡がれば、社員のモチベーションもダダ下がりますし、ネガティブな評判は顧客、取引先にも伝わり、会社のイメージや信用、価値を損なうことにもつながります。そうなると、新たに人を採りたくても、人が来ません。優秀な人は間違いなく入ってこなくなります。人は減り、売り上げは下がり、組織は全体的に活力を失っていきます。事業継続も危うくなっていくかもしれない。(99~100ページより) だから、パワハラは「百害あって一利なし」、会社の未来をも潰すことになってしまうわけです。 パワハラは個人の行動ですが、結局は組織的課題となっていくもの。したがってこの問題を解決していくためには、組織としてしっかり意識啓発をし、きちんとした管理職を育成していくことが重要になってくるのです。「叱る」を履き違えるととんでもないことになるわけで、この点は、これからの企業に託された課題であるともいえそうです。(98ページより) 「叱る」という行為の本質を考えることは、子育てや人材育成の技術論を超えた、人間理解や人のあり方を問う議論だと著者は考えているそうです。 そうした考え方に基づく本書は、後輩や部下を叱らなければならない場面を避けることができないビジネスパーソンにも、大きく役立ってくれることでしょう。 >>Kindle unlimited、2万冊以上が楽しめる読み放題を体験! 「毎日書評」をもっと読む>> 「毎日書評」をVoicyで聞く>> Source: PHP新書
印南敦史