DX農業のトップランナー、栃木の企業「農家が困ったときの私たちでありたい」 全寮制で最先端スマート農業教育も、社長は30代の元銀行員
◆CO2発生器で最初の成功
――研究開発部ではどんな仕事をしたのですか? 2019年にノーリツとの共同研究で、熱の出ないCO2発生器「真呼吸」を開発しました。 農業用ハウス内の二酸化炭素濃度を管理し、光合成のパフォーマンスを最大にする機械です。 私は、ITも「ものづくり」も全く詳しくありません。 分からないことだらけでしたが、現場に協力してもらい、もはや意地でやり抜きました。 この製品は、久々にヒットした新製品となりました。 ――未経験の業界で成功を収めた要因は何でしょうか? 「どんな手段を使ってでもこの製品を実現させなければ」という強い気持ちがありました。 その底流にあったのは、「この製品は、本当に農家の役に立つ」という信念です。 銀行勤務時、2年目研修で本部から言われたのですが、「数字は追いかけるものではない、やることをやっていれば数字が追いかけてきてくれる」と。 今も心に残っている言葉です。 当時の私は、顧客の利益を追求すべきか銀行の利益を追求すべきかで悩んでいましたが、その言葉で自分のやるべきことがシンプルになったような気がしました。 最近では「パーパス経営」という概念が広まっていますが、企業とはそもそも、世の中や人のための役に立ってこその存在です。 だから誠和の代表に就任してからも、社員全員に対して「大義のために仕事しよう」とたびたび伝えています。
◆父はDX農業のカリスマだった
――先代の3代目社長とはどんな関係性だったのですか? 父とは衝突することもあります。 でも、お互いが一生懸命やっている証拠で、意見の衝突があるのは当然だと考えています。 父はカリスマ性がとても強く、この業界で「大出祐造」という名前を知らない人はいないでしょう。 でも、父が代表に就任したとき、誠和の業績は低迷し、就任後数年間くらいは苦しんだそうです。 2011年、父は農業用ハウス内の温度や湿度を計測する環境測定装置「プロファインダー」を開発しました。 これがヒットし、「DX農業の第一人者」という評価を受け、誠和はV字回復を果たしたのです。 ――「プロファインダー」のヒット要因は何だったのでしょう。 農業用ハウス内の温度や湿度、CO2濃度、日射量などをモニタリングして計測する装置です。 従来は各農家が「このくらいの温度だな」と感覚でやっていたのですが、各要素を数値化したことで、効率が格段に向上しました。 環境制御という考え方はいまでこそ一般的ですが、父はその元祖ともいえる存在。 現代では、環境制御はスマート農業の基礎となっています。 ――3代目は教育研修も始めたそうですね。 環境制御という考え方を伝えなければということで始まったのが、教育研修事業です。 また、新規就農を目指す研修生が独立するときには補助金が必要ですが、弊社には補助金に詳しいスペシャリストがいて、新規就農支援もスムーズに始められました。 メーカーの「製品開発」という強みを超えて、さまざまな事業が生まれているのです。 父が掲げていたのは「魅力ある農業社会創り」という理念でした。 私も共感し、今も引き継いでいます。