DX農業のトップランナー、栃木の企業「農家が困ったときの私たちでありたい」 全寮制で最先端スマート農業教育も、社長は30代の元銀行員
◆全寮制の農業研修とは
――教育研修や新規就農支援を行なう意義は? 私たちは、あくまで農家のサポート役です。 教育研修事業にしても、主体となるのはあくまで農家です。 3代目である私の父が始めたのは、最先端の技術を体験できるトマト栽培施設「トマトパーク」での研修事業「トマトパークアカデミー」です。 次世代の農家が1~2年、全寮制の施設でトマト農業をみっちり体験し、独り立ちできる技術や知識を身につけます。 父がよく言っていたのが、「我々が持っているノウハウや情報は、どんどん表にだしてこそ情報が集まるものだ。情報を出せば出すほど、農業をやりたい人が誠和に集まってくる」と。 今、研修事業はトマト以外の作物に拡大し、「誠和アカデミー」としてブラッシュアップを続けています。 ――どのようにブラッシュアップしているのですか? 父が取り組んだ研修事業は農家向けでしたが、私は農家の周囲も支援しようと考えています。 たとえば、地方自治体の農業改良普及員やJAの営農指導員などを対象に、スマート農業の技術やDX、カーボンニュートラルなどをテーマとした出前講座や研修を実施しています。 時代や社会の変化によってニーズは変わり、新しい技術がどんどん生まれます。 しかし、それを使いこなすのは難しく、誰かが使い方を教えなければなりません。 新しい技術をより多くの人に届けていきたい、そして農家が困ったときには「誠和に聞こう」という存在でありたいのです。 ――事業承継後、代表取締役社長として重視していることは? 私はまだスタートラインに立ったばかりですから、今の時点で承継が成功したかどうかはわかりません。 成功に至るための道にいるという感じです。 いまは、必死に働くということしか考えていません。 社員167人全員が同じ方向を向いて進むというのは、非常に難しい。 だからこそ、会社の先頭に立っている私が、真剣に仕事に取り組むことが必要なのではないかと考えています。 会社や従業員のことも大切ですが、誠和の根幹は「農家のため、農業業界のため」という大義にあります。 先にお話ししたように、やることをしっかりやっていれば、業績などの数字は勝手に追いかけてくるはずです。 だから私がやるべきことは、社員の誰よりも仕事をすること。 そうでなければ、きっと誰もついてきてくれません。
■プロフィール
株式会社誠和 代表取締役 大出 浩睦 氏 1986年生まれ。新卒で三井住友信託銀行株式会社に入社。2016年に誠和に入社し、1年間の海外研修期間を経て2017年に研究開発部部長兼生産管理部長に就任。研究開発部部長、統括本部部長兼研究開発部長、取締役営業部長を経て、2021年から現職。