<高校野球物語2022春>/9 広陵のボンズ、覚醒途上 広島商元主将の兄「聖地いい経験に」
「広陵のボンズ」の異名を持つ1年生、真鍋慧(けいた)には四つ上の兄がいる。広島商の主将として甲子園に出場し、法大野球部に所属する駿(たけと)の真鍋評は「良く言えば優しい。悪く言えばヘタレ」。189センチ、91キロの左スラッガーも、兄から見ればかわいい弟だ。 米大リーグで歴代最多の通算762本塁打を放った左の強打者バリー・ボンズさんにちなみ、ついたニックネームは「広陵のボンズ」。そんな真鍋は小学1年の時、兄が所属する地元・広島市の「瀬野ソフトボールクラブ」に入った。年齢が離れているため兄弟が一緒に試合に出ることはなかったが、「当時から同級生より体が大きくて、うまい方でした」と兄は言う。 練習日以外も兄弟一緒に自宅周りをランニングすることもあったが、「慧が途中でスピードについてこられず、いじけて『俺先に帰るわ』って言うんですよ。それで帰ったら、今度は母親に『何で先に帰ってきたのか』って怒られると泣いちゃって」。そんな日もあったが、兄弟はいつも仲良く、自宅前で飛距離が出ないようにバドミントンのシャトルをボール代わりにした「野球ごっこ」を日課とした。 真鍋家には「ルール」がある。お風呂には兄弟一緒に入ることだ。兄は「水道代の節約じゃないですか」と明かすが、このルールは今もそのまま。今年の正月、兄弟が互いに帰省して顔を合わせた時も一緒にお風呂に入った。 野球談議に花を咲かせたり、「彼女はできたのか」とからかったりして久しぶりの「水入らず」を楽しんだ。風呂上がりには、「今なら兄ちゃんに腕相撲で勝てる」と真鍋から挑戦を受けた。兄は「結果ですか? もちろん、軽く『ひねり』ました」。高校球界屈指のスラッガーでも兄の壁はまだまだ高い。 なぜ真鍋は兄と同じ広島商ではなく、広島県のライバル・広陵に進んだのか。2017年夏の甲子園で中村奨成(広島)を擁して準優勝するなど、近年の甲子園での戦績は広陵が圧倒しており、「甲子園で結果を出し、プロに入るため」という。19年夏、兄が主将だった広島商は広島大会準決勝で広陵を降して15年ぶりの甲子園出場を果たしたが、甲子園は初戦敗退。真鍋は「甲子園で勝ち、兄を超えたい」とも思っている。 目の前では照れくさくて言えないが、真鍋にとって兄は「尊敬する憧れ」。昨秋の広島大会中に不振に陥った時には、携帯電話を持っていないため公衆電話から兄に連絡し、助言を求めた。兄はインターネットで真鍋の動画を確認し、「力んで右肩が中に入り過ぎて、差し込まれている」と感じ、後日公衆電話から連絡してきた真鍋にそのことを伝えた。その後真鍋は復調し、明治神宮大会の準決勝の花巻東(岩手)戦では3ランを放つなど活躍。「広陵のボンズ」の名を全国区にした。 ◇打撃に柔らかさ魅力 同じ左のスラッガーで、高校通算本塁打が50本を超える花巻東の佐々木麟太郎、昨秋の公式戦の打点25とセンバツ出場選手トップで真鍋と並ぶ九州国際大付(福岡)の佐倉俠史朗、明治神宮大会優勝に導いた大阪桐蔭の左腕・前田悠伍とともに「1年生四天王」と呼ばれるまでになった。 弟が「1年生四天王」と呼ばれることを兄は「花巻東の佐々木麟太郎君と比べても、圧倒的に力は劣っているんじゃないですか。体もまだまだ小さい」と強調する。それでも、打者・真鍋慧の魅力について兄は「打撃に柔らかさがある。逆方向にちょこんと打ったのが伸びたりする」と話す。 広陵は大会第2日の19日、敦賀気比(福井)との1回戦に臨む。兄は「下級生のうちから甲子園を経験できるのがいい。僕は最後の夏しか出ていませんが、甲子園を経験することでそこからの2年は全然違うものになります。貴重な経験を今後に生かしてほしい」と語る。広陵と広島商の対戦があるとすれば決勝だけ。「どちらを応援しましょう」。弟か母校か。うれしい悩みが来る日を願っている。【大東祐紀】=つづく