2024年ノーベル経済学賞を受賞した奇才、ダロン・アセモグル教授が語る「日本経済の根深い問題」
豊かな国と貧しい国が存在するのは、社会制度が違うから。国家と社会が互いに監視しつつ成長することで自由は生まれる―そんな新説を実証した奇才が、日本を穏やかに、かつ冷静に分析した。(聞き手:大野和基) 【一覧】神、バフェットが日本にまた降臨! 期待大の「全25銘柄」はこちら!
「最高の気分ですよ」
―何よりもまず、ノーベル経済学賞受賞、おめでとうございます! ありがとうございます。そう言っていただけて、とても嬉しいです。 ―10年以上前から、ノーベル賞を受賞する噂は出ていましたね。今年ようやく受賞したのは、少し遅かったと感じますか? いえいえ、遅くはありません(笑)。最高の気分ですよ。 ―あなたの研究のどんな点が、特に高く評価されたと思いますか? 私が'00年代初期から行ってきた、「制度、民主主義、繁栄に関する研究」が重点的に評価されたのだと感じます。そのことをとても嬉しく思います。 10月にノーベル経済学賞を受賞したダロン・アセモグル氏(57歳)は、トルコ出身のマサチューセッツ工科大学教授で、経済学界では引用数・査読付き論文数が突出する経済学者である。 今回の受賞理由を簡単にまとめると、豊かな国と貧しい国の差ができるのは、地理的・気候的な要因ではなく、政治的な社会制度が異なるからであり、その制度が国家繁栄にどう影響するのかを明らかにしたという功績。
日本は政権交代が少ない
世界中の社会制度を分析したベストセラー『国家はなぜ衰退するのか』(ともにノーベル賞を受賞したジェイムズ・A・ロビンソンとの共著。'12年に刊行)では、大多数から搾取された富が一部の権力者に集中する「収奪的」な社会(北朝鮮や中央アメリカなど)は貧困なのに対し、誰もが自由に発言し経済活動できる「包括的」な社会(ヨーロッパやアメリカ、日本など)は繁栄することを鮮やかに示した。 そんなアセモグル氏が日本の政治・経済と、その未来を語る。 ―世界中の専門家が、日本の自民党は頻繁に勝ちすぎていると指摘していますが、今回の衆議院選挙では、ご存じのように自民党が大敗を喫しました。 そうですね。民意で自民党が大敗する日本は、一定のレベルでは非常に強固な民主主義国家となっており、私の述べる「包括的」な社会だと思っています。戦後に日本が産業と経済を発展させ、活力ある民主主義を築いてきた賜物でしょう。 一方で、他国と比べると政権交代が非常に少ない。自民党が戦後、一党支配体制を築いた事態は尋常ではありません。自民党の権力基盤がなぜ揺らがないのかが理解しがたい。おそらく、官僚や企業、地方の利益集団などの複雑な利益誘導システムがあるのでしょう。 自民党の中にキングメーカーがいて、「日本をよくするかどうか」とはまったく別の基準で総理候補者を選んでいる可能性すらある。開かれた政治システムではなく、重要な地位を得るのは内輪の人間が多いことに不満の声も挙がっていますね。この点は不健全であり、「収奪的」な側面です。