ロシアのウクライナ侵攻、イスラエルのガザ攻撃が気候危機に大きなインパクト 紛争開始18カ月でベルギーのGHG排出量を超えたウクライナ侵攻
民間の建物・インフラの損壊・破壊がGHGを最も産み出す
全排出量1億5,000万tCO2eのうち、36%と最も大きな割合を占めたのが、民間の建物・インフラの損壊・破壊だという。排出量にして5,470万tCO2。ロシアのウクライナ侵攻によってもたらされる、気候危機への影響で最も深刻な要因とみなされている。すでに損壊・破壊されてしまった建物・インフラのGHGを測ることは不可能なので、デ・クラーク氏らはそれらを再建した際に出るGHG排出量を計算した。 団地、病院、学校、商業・工業施設のほか、公共施設、道路、車両など、多くが損壊・破壊され、産業にも大きな影響が出た。特に、昨年6月のロシアによるノヴァ・カホフカ・ダムの破壊は周辺地域が水没するなど、甚大な被害をもたらした。ウクライナ側は、決壊による損失は総額240億米ドル(約3兆7,000億円)に及ぶと発表した。住宅をはじめとする建物やインフラだけでなく、ダムも再建する必要がある。 復興に大量の建設資材が必要になるのは言うまでもない。特にコンクリートなどの、製造時にGHGを大量に排出する材料もある。加えて、それらを建設現場へ輸送するのには化石燃料が必要となる。
前線への支援に多用される、化石燃料
戦争が継続される中、化石燃料の消費は着実に増加している。両軍に物資を配送するための車両やルート、施設といったロジスティックスや炭素集約型の爆薬や鋼鉄などで作られた武器や弾薬の増産、損壊・破壊した軍事装備の代替生産などに、化石燃料が必要だ。 また、ロシアはウクライナの反撃を想定し、前線に沿って何キロにも及ぶ防御壁を造った。GHGを排出すると問題視されているコンクリートが資材だ。 第三次報告書での、戦闘からのGHG排出量は合計3,700万tCO2eだ。そのうちの大半、約3,000万tCO2eを占めるのが、ロシア軍の化石燃料使用によるものだという。
民間機の飛行経路変更や森林火災もGHG排出の原因に
ジャーナリストグループにより、ウクライナに設立された独立系汚職防止センター、NGLメディアが今年4月に伝えたところによると、ロシアによる森林破壊は戦争初期から始まっており、ウクライナの森林の約30%が破壊されたという。衛星写真を解析したところ、面積にして6万haが完全に破壊された。これは日本の東大阪市の面積に匹敵する。 第三次報告書によれば、1ha以上の火災の数において、開始前の1年間と比較して、戦争開始後の1年間には36倍に増えている。前線の近辺で多く起こり、森林を破壊している。火災からのGHG排出量は2,220万tCO2eで、総排出量の15%を占める。 デ・クラーク氏らは、ロシアのウクライナ侵攻の影響で飛行ルートの変更を余儀なくされている民間機からのGHG排出量も見逃さない。ロシアはヨーロッパの航空会社などに対し、シベリア空域を閉鎖。一方、ウクライナはロシアの侵攻を受け、同国の空域が商用飛行には適さないと警告している。そのため、ヨーロッパとアジアを結ぶ従来の航路が寸断され、多くの航空会社がう回路を飛ぶのを余儀なくされている。東京・ロンドン間を例に挙げると、ロシアのウクライナ侵攻前には飛行時間は11時間だった。しかし、侵攻後には15時間に延びている。 飛行時間が長くなれば、より多くの燃料が必要になり、GHG排出量も増える。総排出量は1,800万tCO2e。全排出量の12%を占める。