業界の定説に反したアイリスオーヤマの「農作業用の半透明タンク」が大ヒットした理由とは
バブル崩壊(1990年代初め)、リーマンショック(2008年)、コロナショック(2020年)など経済的な危機に見舞われるたびに大きく成長してきたアイリスオーヤマ。その秘訣について、同社の大山健太郎会長は「ピンチをチャンスに変える経営」ではなく、「ピンチが必ずチャンスになる経営」の結果と説く。同氏の著書『いかなる時代環境でも利益を出す仕組み』(日経BP)では、「経常利益の50%を毎年投資に回す」「新製品比率50%に設定」といった独自のKPIとともに、会社を変える「15の選択」を提示している。本連載では、同書の内容の一部を抜粋・再編集して紹介する。 第2回は、誤解されがちな「顧客視点」の本当の意味について論じる ■ マーケットインではなくユーザーイン 「顧客を中心に経営を組み立てる」というと当たり前のように聞こえるかもしれませんが、多くの会社は十分にできていません。注意しなければならないのは、顧客は誰かということです。アイリスでいえば、顧客は小売店なのか、それとも消費者なのか。 そこのところを明確にするには、経営を3つの型で捉えるといいと思います。「プロダクトアウト」「マーケットイン」「ユーザーイン」です。プロダクトアウトと対になる言葉としては、マーケットインが一般的ですが、経営で重要なのはユーザーインの思想です。 順に説明しますと、プロダクトアウトは、自社独自の強みを深掘りすることで勝負する戦略。かつては需要が供給を上回っている状態でしたから、松下幸之助氏が提唱した「水道哲学」のように、とにかくモノを大量に安く作ることが、企業経営の模範とされました。 現代においてプロダクトアウト型が通用しなくなったわけではなく、製造業なら品質、価格、納期などを極めれば勝つことができます。ただ、外的環境の変化や競争条件の変化で需要がなくなれば、せっかくの強みが帳消しになる危険性は常につきまといます。 次にマーケットインですが、これは業界や市場の要望に応える戦略と私は位置づけています。独自性の高くない製品でも、市場で必要とされるものはたくさんあります。価格競争に耐えるだけの資本力や営業力のあるメーカーは、マーケットイン型で戦うことができます。ただし、市場の競争環境によって業績が上下するので、資本力に劣る中堅・中小企業が利益を上げるには無理があります。オイルショックで大赤字を出した、かつてのアイリスがその典型です。 プロダクトアウト型、マーケットイン型の経営が間違いというわけではないのですが、環境変化に翻弄されない会社をつくろうとすれば、ユーザーの動きをしっかりとらまえたユーザーイン型の経営ということになります。 アイリスのように生活者向けの製品を作っている場合、ユーザーとは「エンドユーザー(使う人)」のことです。使う人が「これは役に立つ」「これは安くて使い勝手がいい」などと満足するかどうかを考えるのが、ユーザーインの思想です。 「買う人=使う人」とは限りません。技術者はどうしても、プロダクトアウトの発想になりやすい。また営業社員は、マーケットインの発想になりがちです。営業社員にとっての直接の顧客は問屋や小売店のバイヤーですが、彼らのニーズは大抵、流通のニーズです。流通は、文字通り製品を流すことが役目であり、必ずしもエンドユーザーのニーズとは一致しません。