業界の定説に反したアイリスオーヤマの「農作業用の半透明タンク」が大ヒットした理由とは
1980年代、農作業に使う薬液噴霧器のタンクの色は、黄色が当たり前でした。しかし、これでは農薬がどれくらい入っているか、見ただけでは分かりません。透明なタンクなら、残りが見えて便利なのではと私は考えました。 なぜ黄色ばかりだったかというと、農機具業界では「タンクを黄色にしておけば、直射日光に当たっても、中の薬が変質しない」というのが定説だったからです。小売店は「タンクが黄色でないと売れない」とまで断言していました。 でも、よく調べるとおかしい。農薬は水で薄めて使うのですが、使用説明書を見ると「その日のうちに使い切ってください」と書いてある。水で薄めた農薬は何日も持たないからです。どのみち、2日、3日と使わず、1日で使い切るなら、直射日光の影響はほぼないはず。そこで、半透明タンクの噴霧器の販売に踏み切りました。 一応、小売店の意見も汲んで、黄色いものと半透明のものと二本立てで売り出しました。すると、売れるのは半透明のものばかり。その後、黄色いタンクは見かけなくなりました。 ■ 積み上げ式の値決めからの脱却 このように買う人ではなく、使う人の立場になって考えることで、新たな市場を創造することができるのです。ユーザーは法人ではありません。部品会社なら部品を買ってくれる会社ではなく、部品を使う現場の人、あるいは部品を使って組み立てられた製品を使う人がユーザーです。ユーザーは心底欲しいと思うものには、どういう時代環境であれ、お金を払います。 ユーザーの役に立たなければ、どれだけ小売店の購買担当者に気に入られても、店頭からは消えていきます。どんな業種であっても、ユーザーのニーズを取り込む仕組みを考えていかなければなりません。小売店は、直接ユーザーと接しているから大丈夫、ということは全くなく、ユーザーのニーズに合った製品を提供できていない店は客離れが起こります。 自分たちはユーザーのことを、どこまで真剣に考えているだろうか。 そう問い直すだけで経営は随分変わります。 過度な値下げはマーケットの要望で、個々のユーザーはそこまで望んでいないことがほとんどです。経営者は、そこをはき違えてはいけない。あくまでもユーザーニーズに深く入り込んだ製品、サービスを考えるのです。日本企業はマーケットインの発想が強い。今していることは、「誰の要望なのか」と、まずは落ち着いて考えてみましょう。
大山 健太郎