業界の定説に反したアイリスオーヤマの「農作業用の半透明タンク」が大ヒットした理由とは
例えば、多数の製品を扱う問屋は、売れるかどうか分からない斬新な新製品よりも、安定して売れる製品を扱いがちです。確実に利益が得られる製品をメーカーの営業社員に求め、うのみにした営業社員がそれがエンドユーザーのニーズだと開発に伝える。そうしたニーズのずれはよくあることです。マーケットのニーズとユーザーのニーズを混同しているのです。 ユーザーとカスタマー(顧客)は違います。問屋は、メーカーにとってのカスタマーではありますが、ユーザーではないのです。しかも、問屋などの流通企業は、製品の性能ではなく、あちらのメーカーのほうが価格が安いからという理由で仕入れ先を切り替えることがあります。顧客のニーズを聞いても安泰ではありません。マーケットのニーズとユーザーのニーズのずれを放置し、修正せずにいると、いずれ行き詰まります。 メーカーが、自社の製品を売ってくれる問屋や小売店を大事にするのは至極当然のことです。しかし、その先にいる真のユーザーを見ることが経営の要点なのです。 ■ 「透明タンクは売れない」と言った問屋 具体例を挙げましょう。オイルショックの後、アイリスが着目したのが園芸業界でした。 1970年代の園芸といえば、一般的には商店街の種屋さんで種を買い、屋外に置いた素焼きの植木鉢で育てるというものでした。生活が豊かになるにつれ、もっと自由に、そして室内でも草花や観葉植物を楽しむ時代が来ると、私は考えました。 園芸業界を調べると、どの会社も2ケタの利益率を上げているが、大きな会社はない。しかも、私たちが手掛けていたプラスチック製育苗箱の製造ノウハウを生かせる。また、消費者向けのビジネスのほうが好不況の影響を受けにくいはず。こうしてアイリスは、プラスチック鉢を出発点に、B to B商品からB to C商品へと軸足を移していくのです。 具体的に、どんなプラスチック鉢を作ったか。 素焼き鉢は重くて、落とせば割れる。長く使うとコケやカビが生えるなど、取り扱いが面倒でした。それに対してプラスチックは軽くて、カラフルで、壊れにくく、安価です。既に業務用の鉢はプラスチックに置き換わりつつありましたが、消費者向けはまだ手つかずでした。理由は、消費者は早く花を咲かせたいと水と肥料をどんどんやり、根腐れさせるからです。素焼き鉢であれば、鉢自体が水を通すので、やりすぎた水は鉢の外へ流れ出てくれます。 そうした素焼き鉢のメリットを考慮し、プラスチック鉢の底をメッシュ構造にすることによって、アイリスは扱いづらい植木鉢を生まれ変わらせました。1981年のことです。この製品のヒットを皮切りに、顧客目線で多種多様な製品を投入したアイリスは、プラスチックの園芸用品においてナンバーワンになるのです。 このようにユーザーのニーズを素直に捉えればヒット商品を開発できますが、流通企業がその壁になることがあります。