「なぜ東京大学には女性が少ないのか?」異色キャンペーンの波紋続く 根底に女性差別があるという見方に対して東大OGが「問題をすり替えている」と批判する理由
東京大学が5月に「なぜ東京大学には女性が少ないのか?」というポスターを学内に掲示し、話題を呼んだ。そのポスターでは女子学生や女性教員、女性研究者の少ないことを挙げ、社会構造や性差などに触れて問題提起している。一方で、ある東大OGは「東大に女子が少ない根本的な原因は違うところにある」という。いったいどういうことか。『中学受験 やってはいけない塾選び』が話題のノンフィクションライター・杉浦由美子氏がレポートする。【前後編の前編。後編を読む】 「女子なのに東大?」東大が問題提起をしたポスター
* * * 東大が「なぜ東京大学には女性が少ないのか?」と問いかけるポスターを5月に掲示し、大きな話題になった。「#言葉の逆風」と見出しがついたポスターには学内の女子学生たちが、実際に投げかけられた女性軽視の内容の言葉が並ぶ。「女子なのに東大?」「女子なんだから浪人しないで」といった、女性の東大進学を妨げるような文言だ。女子学生の合格者割合が2024年で20.2%にとどまる東大が、それを打開するための試みの一環であり、2026年度までに女子学生の割合を30%以上を目指すとしている。このポスターは賛否両論を呼んでいる。 ある東大出身の女性(40代)があきれ顔でこういった。彼女は理学部から修士課程に進み、大手企業の研究開発部門で高い地位につき、妹も東大を出て研究者になっている。 「あのポスターは“東大に女子が少ないのは女性差別や構造的な問題”みたいなメッセージを送っているけれど、それは的外れです。東大に女子が少ないのは“工学部の大学”だからです。学年約3000人のうち、1000人ぐらいが工学部です。全国、どこの大学も工学部に女子は少ないでしょう。その工学部の割合が大きいと、全体の中の女子の比率は低くなって当然です」
実はこれは何十年もの間で、幾度となく、私が見聞きしてきた情報だ。 東大は入試の段階では学部は決まっていない。科類別に入試をおこない、1~2年次は教養学部前期課程となり、3年次から文学部や法学部、経済学部、工学部、理学部、医学部など学部に分かれていく。 文科I類は法学部、文科II類は経済学部、文科III類は文学部や教育学部、理科I類は工学部や理学部、理科II類は農学部や薬学部へ、理科III類は医学部に、多くの学生が進学する。入試の段階で工学部につながる理科I類は募集人数が1108人と圧倒的に多い。理IIは532人、理IIIは97人、文Iは401人、文IIは353人、文IIIは469人となっている。 合格者の中での女子比率を見てみよう。理科I類は8.4%、理科II類は20.1%、理科III類は21.4%、文科I類は28.4%、文科II類は17.7%、文科III類は38.2%となっている(2024年度)。文系でも文科II類は17.7%と女子が少なく、理科II類や理科III類よりも少ない。実は理系だから女子が少ないというわけでもない。