「バットが変わった高校野球で時代を制したい」スモールベースボール偏重は危険?…“150キロトリオ”で甲子園準優勝の名伯楽が「長打は正義」と語るワケ
2022年夏の甲子園で東北初の全国制覇を達成し、翌年も慶應高との決勝戦の末、準優勝に輝いた宮城の仙台育英高。須江航監督のクレバーな野球観とともに、一躍、令和の高校野球を引っ張る旗手となった。その名門がいま、監督就任以来初となる3季連続で甲子園を逃すなど、まさかの苦境にあえいでいる。果たしてチームは今、どこを目指しているのだろうか。《前後編の後編/前編を読む》 【写真で比較】「わ、若い…顔が全然違う!」今から20年前、ブレザーの似合う「高校生記録員」時代の須江監督の貴重写真&昨夏の甲子園での仙台育英の奮闘も見る(50枚超) 仙台育英を率いる須江航には、「丁寧な野球をすれば勝てる」という自負があった。 その矜持は、秋に体現できたとも思っている。5試合で30得点、無失点で優勝を果たした宮城大会で証明していたし、翌春のセンバツ出場を懸けた東北大会でも不変だった。 弘前学院聖愛との初戦。「東北屈指の左腕」と名高い芹川丈治に11安打を浴びせて4-0で勝利し、「最近ではこういうゲームはない」と相手監督の原田一範を悔しがらせた。 続く聖光学院との準々決勝でも、仙台育英は攻めの野球を貫いた。2回に4番バッター・川尻結大のスリーベースにスクイズで1点を先取。1-2と逆転を許して迎えた7回は、7番からの下位打線の3連打で1アウト満塁のビッグチャンスから強攻を仕掛け無得点に終わったが、9回には6番の髙田庵冬にホームランが飛び出し一矢を報いた。
実力は見せたが…聖光学院に敗れた「駆け引き」
そんな試合を落としてしまった仙台育英の敗因をあえて挙げるとするならば、「1点の駆け引き」となるだろうか。 1点を追う8回、ノーアウト一、二塁の場面だ。相手バッターがバントの構えを見せると同時にファーストとサードがホームベースに向かってチャージングをかけ、ショートが三塁ベースへカバーリングに入る「ブルドッグ」。このシフトを敷いたところ、聖光学院のセカンドランナーにスチールを仕掛けられ、キャッチャーの川尻が三塁へ暴投してしまったことで決勝点となる3点目を奪われた。 須江のなかでは盗塁はもちろん、バスターやエンドランを想定の上で、二塁牽制を1球入れることも視野に入れていた。それが、このプレーが起こる直前はベンチからサインを出さず静観し、グラウンドの選手を信じた。だから監督は、選手を糾弾することなく自責し、それ以上に自分たちの一枚上を行った聖光学院に敬意を表するのである。 「まずは、斎藤(智也)監督と部長の横山(博英)先生の勝負勘、ベンチワークが素晴らしかったことですよね。それに応えた聖光学院さんの選手たちの粘りも素晴らしかった。あれだけランナーを背負いながらもバッターとしっかり戦えた先発の大嶋(哲平)君とか、選手の勝負強さ、一発勝負で発揮すべきメンタリティがうちよりも上でした」 須江は秋の敗戦を振り返る過程で、「もしかしたら、1点にこだわり、1点を守り抜く野球に徹していれば結果は違っていたかもしれませんね」と呟いた。 1-0の野球。 それは、須江の得意分野でもある。 仙台育英の監督になるまでの須江は、同校の系列である秀光中学で軟式野球部を指揮していた。硬式と違って軟式は、ゴム製のボールの特性上、草野球でも大人気で「飛ぶバット」と呼ばれるビヨンドマックスを使用したところで、滅多に柵越えとはいかない。須江が率いるチームが夏の全国大会で優勝を遂げた2014年。夏の高校軟式の全国準決勝で4日間、延長50回にもわたる大激戦の末、中京が3-0で崇徳に勝利した試合が話題となったように、軟式野球はとにかく点が入らず「ピッチャー有利」とされている。 「全国大会ともなれば、強打と呼ばれるチーム同士が対戦してもヒットは5本くらいしか出ないし、1-0なんてスコアだって当たり前なんです。だからこそ、バント、スクイズ、エンドランを駆使して1点を絞り出し、ピッチャーの配球、守備のポジショニングを緻密に展開して守り抜くといったような野球が僕の体に染みついているんですよ」
【関連記事】
- 【写真で比較】「わ、若い…顔が全然違う!」今から20年前、ブレザーの似合う「高校生記録員」時代の須江監督の貴重写真&昨夏の甲子園での仙台育英の奮闘も見る(50枚超)
- 【最初から読む】「過去のチームの亡霊に憑かれたような…」甲子園で“全国制覇→準優勝”の名門が秋大会敗退で「3季続けて全国不出場」の異例…監督が語ったホンネは?
- 【こちらも読む】「ピッチャー歴たった1年、甲子園出場ゼロなのに…」オリックス3位指名のウラ側…193cm山口廉王(仙台育英高)とは何者か? 監督は「ドラ1候補でもおかしくなかった」
- 【あわせて読む】仙台育英でも、青森山田でもなく…ホームラン「0」で東北制覇!? 高校野球“伏兵の7年ぶり東北大会優勝”に見る「飛ばないバット」時代の新潮流
- 【ウラ話】《青春って密》《人生は敗者復活戦》“名言メーカー”仙台育英・須江航監督…「言葉力」の原点は高3時代「怒鳴ってばかり」の学生コーチ経験にアリ