「バットが変わった高校野球で時代を制したい」スモールベースボール偏重は危険?…“150キロトリオ”で甲子園準優勝の名伯楽が「長打は正義」と語るワケ
「飛ばないバット」時代に「長打は正義」と謳う理由
今年の秋を迎えるにあたっても、「長打は正義」と謳う須江は手応えを感じていた。 練習試合の数は例年通りながら、主砲の川尻が“芯が狭くなったバット”で10本以上のホームランを放つなど、野手の総ホームラン数は「過去最多」なのだという。戦術面においても、得点圏でバントやスクイズではなく強攻策に打って出ても得点率は高くなった。チーム内での実戦では山口廉王、佐々木広太郎、武藤陽世、内山璃力と150キロ前後のストレートを誇る3年生投手陣、左のサイドスローといった変則ピッチャーなど、様々なタイプと数多く対戦し攻略してきたほど、須江が言う“正義”が体現されてきていた。 その野球に迷いはなく、東北大会で潔く散ったのは、須江には変革への揺るぎない信念があるからである。 周囲からの批判を恐れず「時代を制していきたい」のだと声高に宣言できるのは、須江が実績を作った経験があるからだ。 仙台育英の監督に就任した18年。須江が「日本一になるため」に導き出した最適解が継投で、この采配が結実したのが22年の夏である。「140キロクインテット」として話題となった投手陣を軸に、東北勢で初の全国制覇を成し遂げ、さらに、23年夏も「150キロトリオ」を擁して準優勝を果たした。 「それ以前も、正直、先発ピッチャーを完投させたほうが勝てた試合だってあったかもしれません。僕は器用な人間ではないから、甲子園で5試合、6試合に勝って優勝するために、『フレッシュな状態のピッチャーを維持しながら戦おう』と答えを出した以上は、そこから外れた采配を絶対にしなかったんです」 優勝と準優勝という功績について、須江は「複合的な要素が重なり合っての結果」と謙虚に振る舞う。だが、監督として自らが掲げた方針で収めた成果があるからこそ、“芯が狭くなったバット”が導入された高校野球においても、断固たる決意で改革に挑めるのだ。
来年は「飛ばないバット」の“第2期”に?
須江に言わせると、ダイヤモンドの中で展開する飛ばないバット1年目の野球は「第1期」であり、来年の夏を迎える頃には「第2期」に突入しているだろうと予測する。それがどのような野球になるかは未知数だが、少なくとも仙台育英は常に一歩先を行こうと、「ハイブリッド」な野球に邁進している。 「おそらく『第3期』が訪れるのは、1年生からこのバットを使っているネイティブ世代が3年生になった2026年でしょうね」 仙台育英が投手力という絶対的な持ち味を全国に知らしめたように、須江が今回の挑戦で訴えたいのは高校野球の活性化である。 須江は言う。 「相手チームのみなさんがいなければ絶対に成長はあり得ませんから。それは、僕や選手、スタッフ全員が理解しています。今は本物の実力や時代を先取りするものを作り上げている段階。これまでのように『守れる』という評価基準を上げていくことは大前提ですけど、結果が出なければ当然のように反省や修正をしていきます。でも、妥協はせず、教育的な成果はもちろんですけど、勝利と育成という両面で花を開かせるために、信念を持ってやり続けたいなって思っています」 仙台育英の次なる改革。 高校野球激動の時代においても、その航海は真っすぐに。
(「野球クロスロード」田口元義 = 文)
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