なぜパリ五輪合宿メンバーに“アフロの超大型高校生DF”チェイス・アンリが抜擢されたのか…今月中にもシュツットガルトと契約か
トレーニングパートナーを招集した意図をこう説明した森保監督は、ヨーロッパへ移籍した瀬古歩夢(21、グラスホッパー)が体調不良で辞退したセンターバック枠として、大岩監督が示したリストから迷わずに指名したアンリについてこう言及していた。 「すべてにおいてポテンシャルが高いし、身体的にも技術的にもまだまだ伸びる。ここに来てもらうということは、将来的にA代表の可能性もあるということです」 トレーニングパートナーといっても練習メニューは変わらない。FW大迫勇也(31、ヴィッセル神戸)との攻防で吹っ飛ばされる映像が話題を呼ぶなど、強度の高い練習が続いた合宿でコンディションを崩したアンリは最後には見学に回っている。 合宿最終日にオンライン取材に応じたDF長友佑都(35、FC東京)は、年齢が半分ほどのアンリとの間でかわしたやり取りを明かしてくれた。 「紅白戦などでボールが出るたびに『長友さん、速すぎてもう脳がついていかないです』と言っていたんですね。確かにアンリは日本代表のスピードを感じたかもしれないけど、日本代表を世界レベルに照らしたときに、脳の神経系を含めて、まだまだ自分たちは遅いんだと感じるはずなので、そういったところは伝えていきたいですね」 上のステージで揉まれなければ、絶対にわからない領域がある。フォワードとしての自分に挫折を覚え、自ら望む形で中学2年の夏にセンターバックへ転向したアンリに必要なのは未知の経験であり、年齢が上の猛者たちから受ける刺激だった。 今回発表されたU-21代表候補でA代表合宿に参加していた選手としてはアンリの他には鈴木と西尾がいる。特に前者は開幕したばかりのJ1リーグで2試合連続ゴールをゲット。昨シーズンとは明らかに異なるオーラをまとっている。 「面白いもので目の色が変わっているというか、顔つきが変わっているというか。それがスタンダードになっていってほしいし、もっともっとできる選手だと思っている」 A代表合宿での刺激を急成長への糧に変え、大ブレークの予感すら漂わせている鈴木へ目を細めた大岩監督は、U-21代表の立ち位置に対してこう言及した。 「我々はパリ経由でA代表に行くのではない、と。A代表に所属しながらパリオリンピックに行くんだ、ということをしっかり伝えていきたい」 果たして、鈴木と同じ土産をアンリもA代表合宿から持ち帰っていた。 2月12日のFUJIFILM SUPER CUPの前座として行われた、川崎フロンターレU-18-日本高校選抜のNEXT GENERATION MATCH。後者のキャプテンとして日産スタジアムのピッチで戦ったアンリは、A代表合宿をこう振り返っている。 「プレーのスピードや判断のスピードが、いままでとは全然違っていた。身体の使い方を含めて、A代表のレベルでやっていかないと世界では戦えないと感じました」 そして、アンリは今後、日々の練習からも大きな刺激を受ける可能性がある。 未定のままの卒業後の進路について、ブンデスリーガ1部のシュツットガルトの地元メディア『Stuttgarter Nachrichten』は2月下旬に、国際移籍が可能となる18歳を迎える今月24日の誕生日を待ってアンリと正式契約を結ぶと報じた。 サッカー人生の究極の目標を、アンリは「チャンピオンズリーグで優勝すること」と公言してきた。海外志向の強さはJリーグを飛び越しての海外移籍を目指させ、昨秋には、オランダのアヤックスやAZ、そしてシュツットガルトの練習に参加している。 いずれも高い評価を受けたアンリは、日本代表の不動のボランチ遠藤がキャプテンを務め、昨夏にジュビロ磐田から期限付き移籍で加入した、DF伊藤洋輝(22)が大ブレークを果たしたシュツットガルトでの成長を望んだと同メディアは伝えている。 尚志の一員として臨んだ最後の大会だった全国高校サッカー選手権は、大晦日の2回戦でPK戦の末に関東一(東京B)に屈し、年を越せずに終焉を迎えた。公式記録上では引き分けとなる敗退に、アンリは涙ながらに卒業後の誓いを立てた。 「この悔しさはプロの世界で晴らしたい」 20歳で迎える2024年のパリ五輪だけではない。来年にインドネシアで開催される予定のFIFA・U-20ワールドカップ。そして、年齢制限のないA代表の戦いへ。さまざまな可能性を描きながら、アメリカ人の父と日本人の母との間に神奈川県で生まれた逸材の戦いは、ヨーロッパを主戦場としながら新たなステージへ突入していく。 (文責・藤江直人/スポーツライター)