日本人がタワマン嫌いになった決定的瞬間…それでもタワマンに投資し続けるワケ
停滞する日本の「最後の夢」
こうして生まれた「妬み」を背景に、'10年代にはタワマンをテーマにした作品が続々登場する。 '13年に出版された桐野夏生氏の小説『ハピネス』は、タワマンに住むママ友間の人間模様を描いた作品だ。 '16年には豊洲のタワマンを舞台にした菅野美穂主演の『砂の塔~知りすぎた隣人』が放送され話題となった。本作ではセレブ主婦たちによるいじめや、「ゴミ出しも正装」、「幼稚園の送迎バスは学費順で並ぶ」といった独自の「タワマンルール」に主人公が苦しめられるさまが描かれた。もともとタワマンを妬んでいた視聴者にさらに「タワマンは暮らしづらい」というイメージを植え付けたのだ。 そんな負の感情をよそに、人口の東京一極が進む中でタワマン人気は上昇し、価格も高騰した。結果、コロナ禍以降は富裕層とパワーカップルしか手の届かない代物になってしまったのだ。 「東京で住むところがない人」のための無機質な巨大建造物は、わずか20年で「人生の勝者が住むもの」に。その短期間での変容を受け止められない人々が「タワマン嫌い」となったのだろう。 20年前と比べれば、働く環境も居住環境も随分と変わった。首都圏の交通網は発達したうえに、リモートワークも推進され、無理に東京都内に居を構える必要はなくなった。それでもなぜ人々はタワマンに羨望を抱き、必死におカネをためて、重いローンを組み、この「虚栄の塔」の購入を夢見るのか。貞包氏は「理由は様々考えられるが」と前置きしたうえで、こう述べる。 「タワマンブームが起こった時期と、日本が低成長時代に突入した時期は重なります。給料もなかなか上がらず、まともな投資先もない。そのような時代に、タワマンは数少ない『将来価値が上がる投資物件』です。成長への期待が持ちづらくなったこの国で、タワマンに住むということは『残された人生に、ひとつの夢を持つ』意味があるのかもしれません」 停滞し続けるこの国に、巨大デベロッパーが埋めた「夢」。それが、日本人の愛憎相半ばするタワマンの正体なのだ。 「週刊現代」2024年11月16日・11月23日合併号より
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