企業の景況感は改善も家計景況感と乖離(日銀短観12月調査):日銀政策修正は後ずれへ
企業景況感は事前予想を幾分上回る
日本銀行は12月13日、「短観(12月調査)」を発表した。大企業製造業、大企業非製造業ともに業況判断DI(現状)は改善した。大企業製造業のDI改善は3期連続である。また大企業非製造業のDIは32年ぶりの高水準に達した。しかし、この統計が日本銀行の政策修正の引き金となることはなく、政策に与える影響は大きくない。12月18日・19日の金融政策決定会合では、政策方針の修正も含め、政策修正は見送られると予想する。 大企業製造業のDIは前回比3ポイントの改善と、事前予想を僅かに上回った。半導体不足の緩和や米国経済の堅調を映して、自動車の景況感改善が続いた。大企業非製造業のDIも前回比3ポイント改善した。国内旅行の回復やインバウンド需要の拡大を映して、宿泊・飲食サービスのDIは前回比+7ポイント改善した。 他方、先行きの景況判断DIは、大企業製造業が-4ポイント、大企業非製造業がー6ポイントとともに下振れ、先行きの景気状況が必ずしも良好ではないことを示唆している。製造業の景況感下振れには、海外景気の先行きへの不安が影響しているだろう。非製造業では、小売、対個人サービス、宿泊・飲食サービスのDIが低下している背景には、物価高が個人消費の逆風であることや、インバウンド需要の回復が一巡するとの見通しがあるのではないか。
企業と家計の景況感にずれ:短観だけで景気の判断はできない
2023年の企業の景況感は、改善傾向が続いたが、他方で、日本銀行の生活意識調査で家計の景況感DIは9月調査で大きく低下し、暮らし向きDIは2年近く低下が続いている。この点を踏まえると、企業の景況感を示す短観調査だけで、景気情勢を判断するのはリスクがあるのが現在の局面だ。日本銀行もそのように考えるだろう。 企業と家計の景況感に大きな開きが生じている背景には、円安、物価高があるだろう。円安の結果、輸出企業の収益が上振れる一方、円安によって助長された物価高に賃金上昇が追い付かず、実質賃金の低下が続き、労働分配率が低下しているのである。 来年の春闘で賃金が大きく上昇することでこうした分配の偏りが是正され、実質賃金の改善が個人消費を後押しし、また賃金上昇と内需の改善を伴う持続的な物価上昇、いわゆる日本銀行が指摘する「第2の力」による持続的な2%の物価上昇が実現するかどうかが、注目されるところだ。しかし実際には、それが実現する可能性は低いだろう。