企業の景況感は改善も家計景況感と乖離(日銀短観12月調査):日銀政策修正は後ずれへ
日銀は2%の物価目標達成を宣言できない
金融市場では2024年の春闘で高い賃金上昇率が実現し、それを受けて日本銀行が2%の物価目標達成を宣言し、4月の金融政策決定会合でマイナス金利政策の解除を決める、との見方が多くされている。 また、最近の植田総裁の発言などを踏まえ、米連邦準備制度理事会(FRB)が利下げに踏み切り、円高リスクが高まる前の今月、あるいは来年1月の金融政策決定会合で、サプライズでマイナス金利政策の解除を決める、との見方も少なくない。しかし実際には、その可能性は高くないだろう。 日本銀行が2%の物価目標達成を宣言するトリガーとなる賃金上昇率の水準が、どの程度であるかは明らかでない。一部にはベースアップで+3%が基準になるとの見方もあるが、+3%のハードルはかなり高い。 また日本銀行は、2%の物価目標達成を宣言することに慎重だろう。それは長期金利の急騰や急速な円高を招き、金融機関の経営や実体経済に甚大な打撃を与える可能性があるからだ。 他方で、日本銀行は、現在の金融緩和の枠組みには副作用が大きいことから、2%の物価目標達成いかんにかかわらず、それを修正したいと強く考えているのではないかと推察される。そこで、2024年の春闘での賃上げ率は期待されるほどの水準に達せず、2%の物価目標達成との宣言を出すことはできない中でも、結局は、マイナス金利政策解除に踏み切るのではないかと予想される。
日銀のマイナス金利政策解除は後ずれ
その際には、イールドカーブ・コントロール(YCC)の柔軟化と同様に、副作用を軽減することで金融緩和の持続性を高めることが目的、と対外的に説明するだろう。事前に市場との対話に十分な時間をとる必要があることもあり、マイナス金利政策解除の時期は2024年4月ではなく、2024年10月など、年後半以降にずれ込むと見てきたい。 さらに、日本銀行の政策修正を大きく制約する可能性があるのは、国内経済の軟化よりも、米国経済の減速とFRBの利下げである。この先、米国経済の減速が明確になれば、FRBは2024年春にも利下げに踏み切ることが予想される。FRBが利下げを実施する中、あるいはそうした観測が金融市場で強い中では、日本銀行はマイナス金利政策解除など本格的な政策修正を行うことは難しい。それは、急速な円高を生じさせ、経済や株式市場に大きな打撃となってしまうからだ。 米国経済の減速が比較的マイルドに終わり、FRBの利下げが2024年半ば頃までで一巡すれば、日本銀行は2024年10月など年後半にマイナス金利政策解除に踏み切ることができるだろう。しかし、米国経済の減速がより深刻となり、2024年いっぱいFRBの利下げが続くよう状況となれば、日本銀行のマイナス金利政策解除は2025年にまで後ずれするだろう。 現在の金融市場での見方よりも、日本銀行の政策修正は後ずれの方向にリスクがあると見ておきたい。 木内登英(野村総合研究所 エグゼクティブ・エコノミスト) --- この記事は、NRIウェブサイトの【木内登英のGlobal Economy & Policy Insight】(https://www.nri.com/jp/knowledge/blog)に掲載されたものです。
木内 登英