企業の景況感は改善も家計景況感と乖離(日銀短観12月調査):日銀政策修正は後ずれへ
企業と家計の物価見通しにもずれ
10月の実質賃金上昇率(名目賃金上昇率-物価上昇率)は前年同月比-2.3%と19か月連続のマイナスとなった。物価上昇率に賃金上昇率が追い付かず、国民生活は圧迫され続けている。2024年の春闘で大幅な賃上げが実現し、実質賃金が一気にプラスに転じることは考えにくい。 個人消費や物価に与える影響という観点からは、定期昇給分を含まない基本給の引き上げ率、つまりベースアップが重要だ。今年の春闘ではベースアップは2%強となった。来年の春闘ではベースアップは2.5%、定期昇給を含めて3.9%と今年の水準を幾分上回ると予想する。 今回の短観で企業(全規模全産業)の物価上昇率見通しの平均値は+2.1%だった。中期的な物価見通しが+2.0%程度であるもとで、それを大幅に上回る水準のベースアップを実施することに企業は慎重だろう。 短観調査で、販売価格・仕入れ価格判断DIは急速な低下が続いており、企業物価も前年比での下落が目前となっている。こうした中、+2.0%程度の企業の中期的な物価見通しは今後下振れていき、+1%程度まで低下するのではないか。そうなれば、2%の物価目標達成との根拠は一つ失われる。 ところで、来年の春闘でベースアップが2%台半ばとなれば、企業は労働者に配慮した積極的な賃上げと自画自賛するだろう。しかし、個人はそうは受け止めず、期待したほど賃金が上がらなかったと考える。そして、実質賃金の上昇の時期が遠のいたとして、個人消費を抑制する可能性があるだろう。実際のところ、実質賃金が上昇に転じるのは、2025年の後半と予想される。 個人にとっての中長期の物価上昇率見通しは、企業よりもかなり高い可能性がある。それが、賃上げを巡る企業と個人の評価の差となって表れるのである。そして、賃上げに対する個人の失望が、2024年の日本経済の大きなリスクの一つとなるだろう。
2024年の日本経済は「内患外憂」
2024年には輸出環境の悪化も予想される。日本の最大の輸出先である中国の経済の低迷は続いている。政府による経済対策がなお限定的な規模に留まる中、不動産不況の継続やそれに関わる不動産開発会社の社債のデフォルト、不動産関連に投資する理財商品、信託商品のデフォルトなどから、金融が混乱すれば、経済の失速につながりかねない。 他方、日本の第2の輸出先である米国経済については、7-9月期の実質GDPが前期比年率+4.9%と上振れた。しかし、アトランタ連銀のGDPNowによると、現時点での10-12月期の実質GDP成長率見通しは前期比年率+1.2%と、大きく下振れる見通しだ。10月の雇用統計や住宅関連指標には弱さも見られており、昨年来の大幅な利上げや長期金利の上昇の影響から、来年の成長率は大きく下振れる可能性も考えられる。中国に続いて米国経済の減速も明らかとなれば、日本の輸出環境がにわかに厳しさを増す。 このように、2024年も物価高、実質賃金の低下が個人消費の逆風となり、また春闘の結果を受けた賃金上昇への失望が、個人消費の下振れにつながる可能性がある。さらに海外景気の減速による輸出環境の悪化も、国内景気の逆風となり得るなど、2024年の日本経済は「内患外憂」に晒されることになろう。