「ナゾの物質」ダークマターの正体がついに明らかに…?「最有力候補」を科学的検証とともに一挙解説!
原始ブラックホール
3つ目の候補は、筆者の推しダークマターである原始ブラックホールです。通常のブラックホールが重い恒星の最期につぶれてつくられる天体であるのと異なり、原始ブラックホールは宇宙初期に密度ゆらぎが極めて大きな部分がつぶれることで生成されます。見える物質からつくられたのではなく、火の玉の放射がつぶれてつくられたブラックホールなのです。通常のブラックホールの重さは、およそ太陽質量以上、つまり約100京トンの10億倍以上です。それに対し、原始ブラックホールがダークマターになる場合の重さは、約1000億トンから約10京トンの間と予想されています。つまり、太陽質量より桁違いに軽いのです。 これは筆者の研究で示したことなのですが、もし原始ブラックホールが約1000億トンより軽い場合、ホーキング輻射として知られているように、ガンマ線の熱輻射を出して蒸発してしまい、現在のガンマ線の観測で蒸発する様子が見えるはずです。しかし、これまでの観測からそうした現象は見られないので、原始ブラックホールがダークマターになっているなら、もっと重くないといけないということになります。 その一方、重さが約10京トンより重い場合というのは、すばる望遠鏡の観測により否定されてしまいます。すばる望遠鏡でアンドロメダ銀河の恒星をずっと観測していると、その恒星の前を原始ブラックホールが通り過ぎる場合があります。そのとき、原始ブラックホールによる重力レンズ効果で、恒星の明るさが増光することが期待されていました。しかし、実際は観測されなかったことから、重さ約10京トン以上の原始ブラックホールを完全に否定してしまいました。 将来、ガンマ線観測の感度が上がれば、残っている質量領域である、約1000億トンより重く、約10京トンより軽い原始ブラックホールが、ゆっくりと蒸発する様子が観測されるかもしれません。また、原始ブラックホールをつくる密度ゆらぎは、同時に非線形重力波をつくることが知られています。将来の感度の高い、レーザー干渉計宇宙アンテナLISAや0.1ヘルツ帯干渉計型重力波天文台DECIGOなど人工衛星での重力波観測で、その非線形重力波を観測できれば、原始ブラックホールのダークマター説が検証される可能性があります。