無人駅に宿泊! そんな夢の体験ができる「駅泊」が今注目されているワケ
土合駅の「もぐら駅」グランピング
歴史的建造物などの文化資産を活用し、地域点在型の宿泊施設NIPPONIAを運営するNOTE(兵庫県丹波篠山市)は、2019年に無人駅である南海電鉄高野線・高野(こうや)下駅の駅舎内に「NIPPONIA HOTEL 高野山 参詣鉄道 Operated by KIRINJI」をオープンした。 1925(大正14)年築の駅舎を残したままホテルにリノベーションし、引退した電車パーツや真っ赤なカーテンなど客室のそこかしこに配し、鉄道美・大正ロマンを感じさせる客室とした。改札を出るとすぐ横にホテルの部屋のドアがある状況は不思議な感じがする。 新型コロナウイルスの感染拡大の最中だった2020年には群馬県のJR上越線・土合駅(みなかみ町)にグランピング施設「DOAI VILLAGE」がオープンしている。土合駅はホームが長い階段を下った地下深くにあることから 「もぐら駅」 としても有名だ。JR東日本と同社の子会社JR東日本スタートアップ(東京都港区)、キャンプ施設を手掛けるVILLAGE INC.(静岡県三島市)の3社が開発した。グランピングテントのようなデザインのインスタントハウス(宿泊施設)を4棟設置。駅舎内の駅務室を改装した喫茶「mogura」もオープンしている。 無人駅を利用した宿泊施設ではないが、鉄道を利用した非日常的な宿泊体験もある。2024年2月24日に運行した、えちごトキめき鉄道のET127系(妙高はねうまラインの普通列車車両)を使用した企画列車「普通夜行列車」である。 普段は通勤通学や日常生活を支える妙高はねうまラインの普通列車がこの日限定で夜行列車に変化し、一晩でトータル2028mの標高差を行き来するもの。6人分横並びのロングシートを1名が利用する。お弁当・お茶・お夜食・出発日翌日分の冬季限定トキ鉄ツアーパスが付いた。
増加する無人駅の新活用
このような体験が徐々に増えている背景には、第一に 「地方鉄道で無人駅が増加している」 ことがある。沿線の人口減少・高齢化の進展による利用者の減少、経費節減のために無人化が進展した。2019年度のデータだが、国土交通省によれば国内には 「4564駅」 の無人駅があり、2001(平成13)年度と比較して444駅が増えている(11%増)。しかし、無人化しても駅としての機能は維持しているため経費はかかり続ける。さらに、地方鉄道では事業維持のために、減少する運賃収入以外に新たな収益を確保することが課題となっている。 その一方で、近年の消費者はレジャーにおいて、定番的な決められた体験だけではなく、特別な体験を求めているところがある。近年のグランピング・アウトドア人気に象徴されるように、 「宿泊する場所」 も体験の一環となっており、非日常的な宿泊体験が求められるようになっている。 グランピングイベントを主催している事業者では、より希少な体験ができるロケーションを探している状況がある。また、多くの人がSNSに旅先の画像を投稿するようになり、人とは異なる体験を求めるようになったこともあるだろう。 そのようななか、「無人駅に泊まったらどうか」というアイデアが生まれ、むしろ無人駅を活用して地域活性化につなげたいという思いも出てきて、無人駅の宿泊施設が生み出された。