【人脈づくりのスタイルから見える3タイプ】「テイカー」「ギバー」「マッチャー」の見分け方
24カ国語以上で翻訳された大ベストセラー『GIVE & TAKE 「与える人」こそ成功する時代』(三笠書房)を監訳した楠木建さんに、ギブ・アンド・テイクにまつわるお話を伺いました。今回は、3タイプの違いと、テイカーの見分け方について。 【画像】「テイカー」「ギバー」「マッチャー」を知ってコミュニケーションを円滑に
人脈づくりのスタイルから見える3タイプの違い
──前回は「ギバー」「テイカー」「マッチャー」という3タイプの基本的な特徴について伺いましたが、ここでは他者との関係性にまつわるお話しを伺っていけたらと思います。 楠木さん 仕事における重要な要素のひとつである「ネットワーク(人脈づくり)」で考えるとわかりやすいと思います。イギリスの辞書編集者のサミュエル・ジョンソンは「自分にまったく利益をもたらさない人間をどうあつかうかで、その人がどんな人間かがはっきりわかる」と書いたとされますが、まさにテイカーは部下など自分より下だと思う人に対して支配的になり、上司や有力者など目上の人に対しては驚くほど従順で、うやうやしい態度を取る傾向があります。 ──本の中でも「人は権力を手にすると、寛大になって責任感が強くなる一方で、生来の傾向が表に出やすくなることがわかっている」とありました。 楠木さん そうですね。テイカーは寛大にふるまい、ギバーやマッチャーを装いますが、自分の評価をできるだけ楽に上げることを追求するので、結果的に周囲を冷遇して関係性が壊れてしまいます。見返りをいっさい期待することなく、自分の時間やエネルギー、知識、スキル、アイデアや貴重な人脈を惜しみなく分かち合おうとするギバーとは対照的です。 世間でよくありがちな「人脈術」も同じです。「誰と知り合えば自分のビジネスが有利になるのか」「どの人間と仲良くすれば、おいしい話があるのか」といった、自分の利益だけを考えていると、その下心に気づいた人からは身構えられてしまいます。
テイカーを見分けるヒントと、マッチャーの「懲らしめ」
──前回のお話にあった、テイカーは成功しても周囲に妬まれるというのも、まさにそうした理由からですね。マッチャーはいかがですか? 楠木さん マッチャーもテイカーも、他者とつながりをつくるときは、「近い将来、自分を助けてくれそうな人」に的を絞る傾向があります。テイカーは、自分を偉く見せて、有力者にとり入るためにネットワークを広げ、マッチャーは、人に親切にしてもらうためにネットワークを広げる。戦略的にギブしているわけです。 そのため、テイカーとマッチャーが構築するネットワークはどうしても質・量ともに制限されていきます。ただ、マッチャーは公平性や平等に基づいて行動するので、利己的にふるまうテイカーに対しては自分の利益を犠牲にしてでも懲らしめようとし、寛大にふるまうギバーにはきちんと報いようとする面があります。 ──「懲らしめる」というのは、例えばどういうことでしょう? 楠木さん 例えば、テイカーに痛い目にあわされたり、テイカーがほかの人に対して不公平なふるまいをしたりすると、マッチャーはテイカーの評判を共有することで懲らしめます。評判の情報が広まることで、テイカーは信頼されなくなり、今ある関係を断たれるだけでなく、新たな関係も築けなくなりますから。 ──確かに、周囲の評判はひとつの判断材料になりますね。 楠木さん この本には、ほかにもいくつかの「レック」と呼ばれるテイカーを見分けるための手がかりが記されています。レックとは、動物界で雄が雌に自分をアピールする行動で、テイカーが自身を誇張する様と重ね合わせて使われています。 【レックの一例】 ・自分をよく見せるためのコネクションをせっせとつくり、頼み事ができるように関係を保つので、Facebookの「友達」がやたらと多い。 ・SNSなどで、実物以上によく見える自分の写真を投稿することが多い。 ・SNSなどでの投稿は、押し付けがましい、もったいぶるなど、自己中心的な表現が多い。 テイカーのふるまいに比べると、ギバーは、他者に自分の考えを押しつけたり、手柄を独り占めしたりすることなく、仲間が活躍できる機会をつくろうとします。 ■自分なりの仕事哲学をひとつ持っておく ──もし自分にテイカーの傾向があると気づいたとき、少しでもギバーに近づくことは可能なものでしょうか。 楠木さん 若い頃は誰しもテイカー的な発想が強くなりがちですし、どんな人も必ずテイカー的な側面を持っています。その前提を持ちながら自戒していく必要はあるでしょうね。 一般的に、人は成熟するにつれてテイカーからマッチャーを経て、ギバーへ向かっていくものだと思いますが、特に仕事においては自分なりの仕事哲学をひとつ、持っておくべきだと思います。ギバーになるということは、「仕事とは、いったい何のためにするのか」を突きつめるということでもありますから。 ──もう少し詳しく伺えますか。 楠木さん 本来、仕事は「自分以外の誰かのためにするもの」です。どんな仕事にも「相手」がいて、自分以外の誰かのためになるから仕事として成立するわけです。つまり、仕事とは本質的に、誰にとってもギバー的なものなのです。趣味であれば、100%自分のためにやればいいわけですから。 なぜ仕事において哲学が必要なのかというと、仕事の相手も、結果や成果も、事前にコントロールできない不確実なものだからです。やってみなければわからないからこそ、自分なりの仕事哲学が拠り所になるのです。「ギブ・アンド・テイク」もそのひとつ。物事を判断したり評価したりする自分なりの基準を見つけ、つくっていくことが重要だと思います。 ▶︎次の記事では、燃え尽きにくい「他者志向タイプ」のギバーについてご紹介します。 教えていただいたのは… 一橋ビジネススクールPDS寄付講座競争戦略特任教授 楠木建 1964年、東京生まれ。専攻は競争戦略。企業が持続的な競争優位を構築する論理について研究している。一橋大学大学院商学研究科修士課程修了。一橋大学商学部専任講師、同助教授、ボッコーニ大学経営大学院(イタリア・ミラノ)客員教授、一橋ビジネススクール教授を経て2023年から現職。著書に『経営読書記録(表・裏)』(日本経済新聞出版)、『絶対悲観主義』(講談社+α新書)、『逆・タイムマシン経営論 近過去の歴史に学ぶ経営知』(日経BP)など。『GIVE & TAKE 「与える人」こそ成功する時代』(三笠書房)の監訳を務めた。 構成・取材・文/国分美由紀