「ダサいイメージ変える」町田の市民向け生成AI導入から2カ月、見えてきた成果と課題
行政から「オープンソース」の利用提案で低コストに
なぜ町田市では、生成AIによるチャットボットにとどまらず、そこに「アバター」をかけ合わせる一風変わった取り組みを進めることになったのか。起点になったのは2021年だ。 当時、町田市では職員やアカデミアの人材など、さまざまなステークホルダーが集まって2050年の町田の未来を考えるワークショップ(Future Machida 2050)を開催していた。議論の中で見えてきたのが、AIやデジタルツールといった先端技術の活用だった。 行政システムはいまは地理的に分けられているものの、将来的にはデジタル空間(メタバース)を起点に、世界的に展開していく未来もあるのでは──。 そんな大きなコンセプトを描きながら、2021年9月にデジタル戦略化総合戦略2021を策定。以後毎年改定している。2022年10月に改定した際に、オンライン行政手続きポータルの導入や、AIやアバターなどの活用を進めていく方針を定めた。 実際、行政のDXの流れの中で、アバターやメタバースを活用して職員採用試験用のPR動画を安価に作るなど、草の根的に取り組んでいた下地もあった。 OpenAIからChatGPTが発表されたのは、デジタル戦略を改定した直後の2022年12月。偶然ではあるが、タイミングが重なった。 まちドアの開発は、2023年5月に町田市とAI連協協定を締結したNTTデータが担当した。基盤となる生成AIには、マイクロソフトの「Azure OpenAI Service」を活用。生成AIによるチャットボットだけではなく、アバターによるコミュニケーション機能まで一から開発するとなると、コストもかなりかかりそうだが、AIナビゲーターまで含めたまちドアの運用費用は年間で約1200万円と、そこまで法外な値段ではない。 和田さんは、かつてエンジニアとして民間企業で働いていた経験を生かし、アバター作成に使えるオープンソースのソフトウェアなどを調査。NTTデータに発注する段階で、ある程度活用できそうなものを見繕うことでコストを抑えたという。 生成AIを住民向けサービスとして活用する上では、セキュリティー面にも気を遣う。 AIを実際の手続きにまで活用しようとすると、どうしても住民の個人情報にアクセスする必要があり、運用が難しくなる。そこでAIナビゲーターでは、既存のオンライン申請フォームなどの手続きページを案内する機能に限定。手続きそのものはあくまでも住民(ユーザー)主導とした。 手続き候補を複数提示する形を取ることで、AIが誤情報や関係のない回答をする「ハルシネーション」を防ぐことにもつながっているという。 AIの学習データも、もともとオンライン上に公開されている情報だけに限定した。住民がAIナビゲーター上で入力したデータも再学習させない。ほかにも不適切な質問をされた際に生成AIが回答しないようにするフィルタリングの仕組みなども導入している。 町田市が実施した満足度調査では、利用した8~9割の住民から「満足した」と回答があるなど、概ね好評だ。 「手続き名が分かっていないと辿り着けなかったような手続きも、AIを通して辿り着けるようになりました。一方で、登録されてない手続きについては窓口に来てもらうように案内をしないといけないのですが、そこはまだできていません。そこは課題です。(AIで案内できる)手続きの数をどんどん増やして利便性を向上させていきたい」(和田さん) 抽象度の高い質問への回答精度も課題の一つだ。ただ、それは生成AIの進歩によって解決できる可能性も高い。町田市としてはモデルを差し替えられる仕様にすることで、極力新しいバージョンを活用していきたい考えだ。
三ツ村 崇志,田村三奈