なぜ私たちは同じ甘味でも人工甘味料より砂糖を好んで摂取するのか?医学博士「実は<舌>で情報を区別しているのではなく<腸>が…」
◆私たちが糖や脂肪を欲するわけ 私たちは、糖であるグルコースだけでなく、脂質を含む食べ物を食べても美味しいと感じます。 というのも、ヒトだけでなくさまざまな動物にとって糖と脂質は、エネルギーを豊富に含む必須の栄養素であるためです。 糖と脂質を好んで摂取することを確かめるために、次のような実験が行われました。 マウスに、脂質として大豆油の含まれる溶液(甘さはない)と人工甘味料が含まれる溶液(甘さはあるが糖と脂質は含まない)を自由に飲める状態にして与えます。 すると、実験開始初日は、マウスは甘い人工甘味料液を選択しますが、その後は甘さのない大豆油を選択するようになります。 この大豆油を選択する際に、舌の味覚情報や消化管からの情報が伝えられる延髄の孤束核のニューロンが活性化することがわかりました。 ニューロポッド細胞には、甘味受容体だけでなく、大豆油のような脂質を感じるための脂肪酸受容体も発現していました。 これは、ニューロポッド細胞が脂質の情報を感知し、その情報をシナプス結合している求心性迷走神経を介して延髄の孤束核へ伝達しているためではないかと考えられました。 そこで、求心性迷走神経を手術によって切断すると、予想どおりマウスは大豆油を選ばなくなったのです。
◆無意識で物をいう臓器 ニューロポッド細胞は、脂質だけでなく、糖(グルコースやスクロース)やタンパク質(アミノ酸)にも反応します。そこで、それぞれの物質を投与したときの延髄の孤束核の反応が解析されました。 その結果、甘味を感じる細胞は、脂質にもアミノ酸にも、つまり三大栄養素すべてに反応しました。 一方で、脂質にだけ反応する細胞も存在することがわかりました。つまり、腸は脳へ、三大栄養素をまとめた情報と脂肪だけの情報を分けて伝達していたのです(1-3)。 これらの研究結果から、マウスだけでなく私たちヒトも、糖分や脂肪分を含む食品を生まれながらに欲するのは、腸が脳と直結して、脳にとって最も即効性のあるエネルギー源である糖分や体内に貯蔵できるエネルギー源である脂肪が補給されている様子を常にモニターしているからだともいえます。 腸は、私たちが思った以上に、無意識で物をいう臓器なのかもしれません。つまり、腸の中にはあなた自身がいるようなものなのです。 ・参考文献 1-1 Ren X et al., Journal of Neuroscience 30, 8012-8023, 2010. 1-2 Buchanan KL et al., Nature Neuroscience 25, 191-200, 2022. 1-3 Li M et al., Nature 610, 722-730, 2022. ※本稿は、『「腸と脳」の科学 脳と体を整える、腸の知られざるはたらき』(講談社)の一部を再編集したものです。
坪井貴司
【関連記事】
- 大腸に約40兆個「腸内マイクロバイオータ」とは?注目されたのはノーベル賞受賞学者が唱えたヨーグルト好きのあの地方の「不老長寿説」がきっかけで…
- <時差ボケ>で腸内環境が激変?医学博士「睡眠障害と肥満や大腸がんの間には関連性があることが判明していて…」
- 「脳」の病気と考えられてきた<パーキンソン病>。最新研究で実は「腸」と関係があることが判明。医学博士「なので予防にはある食事を多く摂るべきで…」
- 人類史上で最も長生きした女性が「1週間に1キロ食べた」好物とは…医師「疲れ知らずの体をつくるのに食事の変革は必須」【2024年上半期BEST】
- 老けない最強食ベスト5!冷凍で栄養価がさらに高くなる野菜とは?冷凍庫に入れる前のひと工夫で、野菜の酸化・老化を防ぐ【2024年上半期BEST】