なぜ私たちは同じ甘味でも人工甘味料より砂糖を好んで摂取するのか?医学博士「実は<舌>で情報を区別しているのではなく<腸>が…」
◆腸内分泌細胞では違いを区別するのか? 私たちヒトの場合で考えると、スクロースの入った清涼飲料水と人工甘味料のスクラロースの入った清涼飲料水は、両方とも甘く、舌でその違いを明確に区別することは簡単ではありません。 けれども、腸内分泌細胞ではその違いを区別することができ、その情報を脳へ伝達しているのではないかと考えられるのです。 そのことを確認するために、マウスの腸内分泌細胞(I細胞)にスクロースやスクラロースを投与したところ、求心性迷走神経が活性化しました。 スクロースは、腸内でグルコースとフルクトース(果糖)に分解されます。 グルコースは、1型ナトリウム依存性グルコース輸送体(SGLT-1)と呼ばれるトランスポーターを介してニューロポッド細胞に取り込まれ、細胞の興奮を引き起こし、グルタミン酸の分泌を引き起こします。 一方、スクラロースは、甘味受容体を介してニューロポッド細胞を興奮させ、ATP(アデノシン三リン酸)の分泌を引き起こすことがわかりました。 ATPは、私たちの体内のあらゆる細胞で使用されるエネルギー分子として知られていますが、じつは、重要な生体情報を細胞から細胞へと伝達する伝達物質としての役割もあります。 例えば、筋肉の収縮と弛緩の調節や、ニューロンから筋肉への情報の伝達にATPが用いられています。味や音などの感覚や痛みなどもATPによって情報が伝達されています。 つまり、ニューロポッド細胞は、グルタミン酸だけでなくATPも神経伝達物質として用いていて、スクラロースなどの人工甘味料の情報を腸内で区別して脳へと伝達していたのです(1-2)。 このようにニューロポッド細胞は、コレシストキニンやグルタミン酸だけでなく、ATPも分泌する多彩な機能を持つ細胞なのです。
◆脳は砂糖と人工甘味料を区別する この研究結果は、マウスを用いたものであるため、ヒトでもこのしくみが当てはまるのかを確認するには、今後さらなる研究が必要です。 ただ、想像をたくましくすると、以下のような可能性が考えられます。 私たちヒトは砂糖と人工甘味料の味を舌の味細胞では区別できません。 しかし、腸のニューロポッド細胞では、グルコースを感じた場合はグルタミン酸、スクラロースを感じた場合はATP、と分泌する神経伝達物質を変えて、その情報を区別して脳へ伝達します。 その結果、脳は無意識に砂糖と人工甘味料を区別することができていると考えることができます。 ただ、なぜこのようなしくみが存在するのか、また、なぜグルコースには反応するのに果物に含まれるフルクトースには反応しないのか、といった疑問もまだ残っています。
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