生物はいつから眠っているのか…睡眠には必ずしも脳が必要なかったという「意外な研究結果」
私たちはなぜ眠り、起きるのか? 長い間、生物は「脳を休めるために眠る」と考えられてきたが、本当なのだろうか。 【写真】考えたことがない、「脳がなくても眠る」という衝撃の事実…! 「脳をもたない生物ヒドラも眠る」という新発見で世界を驚かせた気鋭の研究者がはなつ極上のサイエンスミステリー『睡眠の起源』では、自身の経験と睡眠の生物学史を交えながら「睡眠と意識の謎」に迫っている。 経済協力開発機構(OECD)の調査結果によれば、33ヵ国のうち日本の平均睡眠時間は7時間22分と最短だった。 多くの人が知っているように、日本人の「睡眠不足」が深刻な状況にある。 そうしたなかで、そもそも「なぜ生物は眠るのか」という研究が注目を集めている。 『睡眠の起源』で詳細に書かれているのは、「脳を休めるために眠る」という常識を覆し、脳がなくても眠るという研究だ。 〈私は19歳だった大学2年生のとき、ヒドラという不思議な生き物を観察していた。 水の中で生活するクラゲやイソギンチャクの仲間で、0.5~1センチメートルほどの小さな生き物だ。ヒドラには、脳がない。脳をもたず、たった2つの細胞の層からできた体。水の中でゆらゆらと揺れ動く姿は、思考や感情を伴わず、流れに身を任せて生きているようだった。 でも、そんなヒドラにも、自ら体を動かして餌を採り、ときに動きを止めて休む状態がある。それは、まるで眠っているかのようだった。 それから私は、その眠っているかのような状態について研究した。まず、睡眠とはどういう現象かを徹底的に考えてみた。 そして、睡眠の基本的な要素が、脳をもたないヒドラにも存在することを実証していき、その睡眠をコントロールする遺伝子が、ヒドラと他の動物で共通していることを発見した。 成果は、研究をはじめてから3年半ほど経った2020年に、論文として発表される。「脳がなくても眠る」という事実は、睡眠科学の常識を覆し、「ヒドラにも、他の動物と共通する睡眠メカニズムが存在する」という発見は、世界中で大きな反響を呼んだ。〉(『睡眠の起源』より)