絶望しかない…バブル期に買ったハワイの別荘、その後円安で売却したら→米国連邦所得税&ハワイ州税、まさかの「ダブル課税」に撃沈
世界の相続税をみると、課税のない国があれば、相続税があっても課税方法はバラバラです。バブル期に日本人の多くがハワイの別荘を購入しましたが、40年が経過し、相続税の問題が顕在化しつつあります。本連載では、富裕層の国際相続の諸課題について解説します。 【早見表】3,000万円30年返済の住宅ローン…金利差による利息分
外国の不動産購入が加速
1985年のプラザ合意後の円高傾向と、国内の不動産価格の高騰などを背景に、法人および個人が比較的割安感の出た外国の不動産を購入する動きが加速しました。 ハワイを中心に日本人の多くが海外に別荘を購入する例がありました。しかし、バブル期から約40年が経過して、これらの海外の別荘処分に税金の問題が生じてきました。 別荘のオーナーが高齢化すると、相続する子どもたちなどに負担をかけることを恐れて、生前に財産の整理をすることを検討するでしょう。 特に、別荘の所在地が外国の場合、日本国内の不動産の処分と異なる手続きが必要となります。居住地、出身国に関係なくハワイの不動産を購入することは至ってシンプルです。しかし、物件を売るとなると、住んでいる場所が影響してくるのです。
日本居住者がハワイの別荘を処分するとどうなる?
仮に日本居住者Aさんが米国ハワイ州所在の値下がりした不動産を譲渡するとします。 円高の時期に不動産を取得し、円安になったために譲渡しました。それによって、ドル建てで生じた譲渡損失と円建てで生じた為替差益が生じることになりました。 ですが、米国非居住者であるAさんは、不動産の譲渡に伴う米国連邦所得税とハワイ州税の源泉徴収とその還付手続きが絡むことになります。もはや絶望的な状況といえるでしょう。要するに、売却の際にハワイ州内に居住していないことによって、源泉徴収税の対象となるのです。
米国連邦所得税の課税
まず米国連邦所得税からみていきましょう。 米国と租税条約の適用のあったオランダ領アンチルの居住者が、当時、不動産化体株式(不動産関連法人の発行済株式)の譲渡が課税にならないことから、これを悪用した租税回避が横行しました。 1980年にこれを防止するための税制(Foreign Investment in Real Property Tax Act:略称FIRPTA[ファプタ])が創設され、4年後の1984年制定の赤字削減法により源泉徴収が課税となりました。FIRPTAはハワイ州の物件を売却する時点でアメリカ国内に居住していない場合に適用されます。 源泉徴収の税率は、譲渡金額が100万ドル以下で、買い手の居住用の場合が10%、それ以外は15%です。 FIRPTAは内国歳入法典第897条に規定され、法人の資産の50%以上が不動産(不動産の評価は時価)である場合、その処分から生じる譲渡収益が課税となります。 日本の場合は、譲渡代金を支払う者が源泉徴収しますが、米国の場合は不動産の権利関係を仲介するエスクロー会社がこれを行います。エスクローとは、物品などの売買に際して信頼のおける第三者が契約当事者の間に入り、代金決済など取引の安全性を確保するサービスです。 米国における不動産譲渡契約は以下のように行われます。 (1) 売主および買主あるいはそのエージェントが介在して売買契約書を作成。 (2) 売買契約書を第三者機関であるエスクロー会社に送付。 (3) エスクロー会社は、調査会社等に当該不動産に関する権利関係等の調査を依頼。 (4) エスクロー会社は、新たな権利書を作成し、売主と買主が署名。 (5) 買主は譲渡代金をエスクロー会社に預けたあと、署名済み権利書を登記所に提出。 (6) エスクロー会社は、源泉徴収税額を差し引き納税。 (7) 買主は権利書、鍵等の引き渡しを受け、売主は、譲渡対価から源泉徴収税額、エスクロー会社の手数料等(譲渡対価の6%)を差し引いた金額を受け取る。 米国の連邦所得税の課税では、前出の日本居住者Aさんは米国非居住者になります。Aさんは譲渡損失であることから、源泉徴収された税額は翌年の確定申告(納付期限は4月15日)還付について、確定申告前に早期還付を求める手続きもあります。