スーパーヘビー級ボディの「巨体EV」は本当に環境に優しいのか?
スーパーヘビー級ボディを持つEVが欧米の自動車メーカーから続々デビューしている。しかし、大きな疑問がある。本当に環境に優しいクルマなのか? カーライフジャーナリストの渡辺陽一郎氏が解説する。 【写真】3・8秒で時速100キロに到達する巨体EV * * * ■時速100キロ到達3秒切りの巨体EVも ――欧米のEV(電気自動車)にはスーパーヘビー級ボディのEVが目立ちます。そして、性能もハンパないです。 渡辺 メルセデスベンツEQS580・4マチックSUVスポーツは、全長が5135mm、全幅が2035㎜の大きなボディに、システム最高出力が544馬力、システム最大トルクが858Nmのモーターを積んでいます。停車時から時速100キロまでの加速タイムは4秒台です。 ――BMWは? 渡辺 同様にSUVスタイルのiX・M60は、全長が4955㎜、全幅は1965㎜のボディに、システム最高出力が540馬力、システム最大トルクは103・5Nmのユニットを搭載。時速100キロまでの加速タイムは3・8秒です。 ――極めつけは? 渡辺 テスラのサイバートラックです。最上級のサイバービーストは、全長が5683㎜、全幅は2200㎜の巨体で、最高出力は800馬力を超えます。停車時から時速100キロまでの加速タイムは2・7秒とスーパースポーツカー並みです。 ――そもそもの話ですが、パワフルな巨体EVってエコなの? 渡辺 巨体EVは、言うまでもなくボディは重い。サイバートラック・サイバービーストは車両重量が3104㎏、メルセデスベンツEQS580・4マチックSUVスポーツは2880㎏、BMW・iX・M60も2600㎏です。日産リーフGは1520㎏ですから、サイバートラックは2倍以上です。そして重いボディを動かすには、当然ですが大きなエネルギーが必要になるわけです。 ――なぜ輸入SUVはボディが重い? 渡辺 まずは1回の充電で走行できる距離を重視していること。サイバートラック・サイバービーストは、1回の充電で515㎞を走行できると説明しています。メルセデスベンツEQS580・4マチックSUVスポーツはWLTCモードで589㎞、BMW・iX・M60は615㎞に達します。1回の充電で長い距離を走るには、リチウムイオン電池も大型になります。メルセデスベンツEQS580・4マチックSUVスポーツの総電力量は107.8kWh、BMW・iX・M60は111.5kWhですから、リーフGの40kWhに比べて電池容量は2倍以上です。その分だけボディも重く、電力消費量も増えます。 ――そのほかの理由は? 渡辺 ボディが重くなると、加速力などの動力性能が悪化します。そこでパワフルなモーターを搭載すると、電力消費量が増えます。モーターの性能を高めると、車両重量も増えて、電力をさらに消費します。その結果、ますます大容量の電池を積まねばなりません。 ――悪循環ですね......。 渡辺 この悪循環はユーザーのメリットにならず、販売面でも不利です。そこでメーカーは、モーターの特性に注目しました。モーターはエンジンに比べると、高い出力を瞬時に発揮できます。そのためにEVは、アクセル操作に対して機敏に加速して、走りがスポーティに感じます。この付加価値を強化して運転の楽しさをアピールすれば、先に述べた悪循環も目立たなくなります。 そこで巨体EVは、時速100㎞までの加速タイムが3.8秒だとか、2.7秒だと競っているのです。つまり、「電力消費量が多く、充電時間も長く、価格も高いですが、加速力は超絶スゴいですよ!」とスリ替えています。 ――加速力は実際スゴいんですか?