スーパーヘビー級ボディの「巨体EV」は本当に環境に優しいのか?
渡辺 確かに強力です。アクセルペダルを乱暴に踏むと、車体全体から「ドスン!」という音と振動が生じて、蹴飛ばされたような加速を開始します。ただし車両の開発者によると、「あのようなフル加速を頻繁に行なったら、ボディや駆動系の疲労も大きい」とのこと。乗員のカラダにも悪いでしょうね。 ――不必要な加速性能だと。 渡辺 EVの本質は二酸化炭素の排出量と化石燃料の使用量を減らすことです。加速競争に突っ走る巨体EVは本質を完全に見失っています。そして、「大容量のリチウムイオン電池は、製造段階で排出される二酸化炭素が特に多い」とコメントする開発者もいます。巨体EVは、走行時の電力消費量が増えるだけでなく、製造する時から欠点を抱えているのです。 ――巨体EVは問題アリだと。 渡辺 車両重量と動力性能が増えると、タイヤや道路損傷が大きいという見方もあります。ボディの重い車両は、バスやトラックなど多くありますが、巨体のEVが急増すると問題化するでしょう。 ――規制も実施されるとか? 渡辺 今後の欧州における排出ガス規制のユーロ7では、タイヤやブレーキの粉塵も対象に含まれます。EVを狙い撃ちする規制ではありませんが、重いボディに高い駆動力を組み合わせると、タイヤの摩耗は促進されます。従来の排出ガス規制では、走行段階における窒素酸化物や二酸化炭素の排出量が主な対象でEVに有利でしたが、今後は幅広く公平に判断されます。 ――どんなEVが環境に優しいの? 渡辺 大前提としてEVだから環境に優しいとは判断できません。車両の開発/製造/流通段階、使用では走行段階に加えて、石油の採掘や精製、発電まで含めて二酸化炭素や排出ガスの発生を測る必要があります。環境に優しいクルマの鉄則はEV、エンジン車を問わず、ボディが軽く空気抵抗も少ないことです。ボディが小さくて軽ければ、電力でも燃料でも消費量を減らせます。タイヤやブレーキの粉塵も少ない。 ――本来あるべきEVは? 渡辺 日産サクラのような軽自動車サイズの電気自動車です。車両重量は上級のサクラGでも1080㎏ですから、巨体のEVに比べると3分の1です。リチウムイオン電池の総電力量は20kWhだから5分の1以下です。価格も上級のサクラGが300万円少々だから、メルセデスベンツEQS580・4マチックSUVスポーツの1999万円、BMW・iX・M60の1788万円に比べて格安です。 ――ただしサクラは1回の充電で走れる距離も短いです。 渡辺 確かにサクラはWLTCモードで180㎞ですが、そもそも長い距離をクルマで移動すること自体、エネルギー効率が悪く二酸化炭素の排出量も増やします。 ――どういうこと? 渡辺 人が長距離を移動する時は、公共の交通機関を使うと、二酸化炭素の排出抑制に効果的です。クルマは買い物など近隣の移動のみに使い、遠方まで移動する際は、駅や空港に併設されている駐車場にEVを置いて出かける。いわゆるパーク・アンド・ライドですね。 ――最後に総括を! 渡辺 EVのパワー競争で楽しみたい気分も分かりますが、それはごまかしであり、本末転倒です。脱炭素の最も本質に迫るEVというのは、軽自動車サイズの国産EVです。 取材・文/週プレ自動車班 写真提供/メルセデス・ベンツ BMW 日産自動車