北陸新幹線「延伸」でも心配なし? 滋賀県「並行在来線」が経営分離されない、これだけの理由
並行在来線問題とJRのネック
筆者(北村幸太郎、鉄道ジャーナリスト)はこれまで、北陸新幹線小浜ルートに代わる米原ルート案の東海道新幹線直通について、 【画像】「ひょぇぇぇぇ!」 これが「60年前の米原駅」です! 画像で見る(16枚) ・所要時間面の試算と線路容量問題の解決策 ・料金面の試算とJR西が料金を取りっぱぐれないスキーム ・線路使用料の問題 ・運行管理システム ・自治体の負担の試算 などを記事にまとめてきた。今回も声の多かった課題のひとつ、関係者利害の問題として、 ・並行在来線問題 ・JRにとってのネック(一部再掲) の話を考えていく。 特に並行在来線の問題については、滋賀県があれこれ心配して騒がなくても、少なくとも滋賀県内での経営分離の可能性は極めて低い理由があることを、輸送量のデータや他の新幹線開業時の事例とともに示したい。
湖西線の重要性と経営判断
続いてよくある声が、 「並行在来線問題を滋賀県が飲むはずがない」 というものである。これについては小浜ルートで整備するにしても滋賀県は逃れられないだろう。並行在来線の経営分離なんて制度があるのは、JRの負担が重複しないようにするという配慮から生まれたものであるから、一応、特急が走っていた線区を分離するということにはなっている。 けれども、現行制度から考えるに、並行在来線に並行する新幹線が滋賀県内を通っていないからといって滋賀県は関係ないとはならないだろう。だがこのようなトラブルは制度設計のときに想定できなかったのだろうかとは思う。JR西日本は並行在来線の処遇については言明を避けているが、次のいずれかのシナリオになることが想定される。 1.湖西線も北陸本線もJRのまま存続 2.福井県内の敦賀~近江塩津間のみハピラインふくいに移管 3.北陸本線を分離 4.湖西線を分離 5.湖西線も北陸本線も全線分離 (※湖西線については堅田以北、北陸本線については長浜以北など、一部区間のみの分離も想定されるが、JR西日本の輸送密度の統計では、湖西線と北陸本線の近江塩津~米原間については、途中で区間を分けた集計をしていないことから、一部だけ分離の可能性は低いと見ている) 筆者としては可能性が高い順に、 「1 → 2 → 3 → 4 → 5」 ではないかと考えている。特に湖西線を手放す可能性は薄いのではないか。鉄道ライターの杉山淳一氏も自身の記事「北陸新幹線新大阪延伸「京都府水問題」で召喚される米原経由の亡霊」(マイナビニュース、2022年11月2日配信)で述べているように、湖西線には 「特急「サンダーバード」が新幹線に移行しても、湖西線内は新快速をはじめ、京阪神への通勤需要を考慮した列車が運転されている。線内需要が多い」 といった特徴がある。 この利用実態を計る指標として「輸送密度」というものがある。輸送密度とは「旅客営業キロ1kmあたりの1日平均旅客輸送人員のことで、1日1kmあたりの平均乗車数として算出されるため、「輸送断面」「平均通過人員」と呼ぶこともある。計算式は、 「輸送密度 = 年間輸送人キロ ÷ 営業キロ ÷ 365日(うるう年は366日)」 となっている。もし、1日あたりの輸送人キロが出ていれば、 「輸送密度 = 1日の輸送人キロ ÷ 営業キロ」 でも算出できる。いまいちピンと来づらいと思うので例題を示す。あいの風とやま鉄道では、1日あたりの各駅間まで細かく通過人員(2023年度)を出しているので、この内、高岡~富山間を例に輸送密度を計算してみる。各駅間の通過人員は次のとおりである。 ・高岡~越中大門間3.7km:1万3512人 ・越中大門~小杉間3.7km:1万3663人 ・小杉~呉羽間6.6km:1万5322人 ・呉羽~富山間4.8km:1万6789人 この各駅間の通過人員に営業キロをかけて輸送人キロを出す。 ・1万3512人 × 3.7km = 4万9994人キロ ・1万3663人 × 3.7km = 5万0553人キロ ・1万5322人 × 6.6km = 10万1125人キロ ・1万6789人 × 4.8km = 8万587人キロ ・合計:28万2259人キロ そしてこの輸送人キロの合計を高岡~富山間の営業キロで割ると 「28万2259人キロ ÷ 18.8km = 1万5014人/日・km」 となり、あいの風とやま鉄道が公表している 「高岡~富山間平均通過人員(輸送密度)15,014人/日・km」 と同じになる。これが輸送密度の求め方であるが、この例題で数値感がつかめていただければ幸いである。この輸送密度が2000人/日・kmを切ると「廃線近しか」になると考えていただければと思う。もっとも3000人/日・km台でも、 「JRが積極的に残したい路線」 とはいえない。